【橘玲『DD論』インタビュー第3回】世界は自由になり、多くの男は脱落し、女は幸福度が下がった
――これもまた、「正義」と「悪」の二元論者からは叩かれそうな「DD」な話です。 橘 もうちょっと説明すると、「家父長制に戻せばいいんだ」という保守派の主張に賛同するわけではありません。問題は、男と女の権利は平等でも、一定の生物学的な性差があるという当たり前のことを認めない社会でしょう。その違いは骨格や体力だけではなくて、当然、脳の構造にも反映されているし、その生物学的な基礎の上に趣味嗜好のような文化的な要素が加わって「男らしさ」「女らしさ」をつくっていく。 だとしたら、すべての女性に男と同じ競争を強いるのではなく、子育てをしながら社会に参画して自己実現できる、もっと自由な働き方があってもいいのではないか。男との競争に勝って「ガラスの天井」を壊すことを幸せだと思えない女性もたくさんいるでしょう。アメリカで一時期、「オプトアウト」(キャリア女性が仕事を辞めて子育てに没頭すること)が流行った理由は、こういうことだと思います。 ――それと、『DD(どっちもどっち)論』の中でも印象的なテーマのひとつが、女性の「エロス資本」について書かれたパートです。 橘 10代から20代でピークを迎える「エロス資本」があるというのは、ほとんどすべての女性がわかっていることだと思いますが、SNSでそれがより可視化され、マネタイズできる時代になりました。少し肌を見せればフォロワーが何万人とつきますし、パパ活の相手だってその気になればすぐに見つかるでしょう。 事件にもなった「頂き女子」は億単位のお金を稼いでいたわけですが、大卒サラリーマンの生涯収入は、新卒から定年までの40数年間で平均3、4億円です。普通に働くのがバカバカしくなって、エロス資本がピークを迎える若い時代に稼げるだけ稼ごうと思うのは合理的でしょう。 「頂き女子」が弱者おじさんのヒーロー願望や救世主願望をかなえて何百万円、何千万円というお金をもらい、今度はそれをすべてホストに貢いでしまう――救いがないといえば救いがない話ですが、よくできているなとも感じます。自分が女の子の親だったら心配でしょうがないとも思いますが(笑)。 ※インタビュー第1回「日本のリベラルは『民族主義』の変種?」、第2回「仕事がデキるのは『DD』な人」もぜひお読みください。 ■『DD(どっちもどっち)論 「解決できない問題」には理由がある』 集英社 1760円(税込) 面倒な問題をまともに議論する気のないメディアへの信頼感が失われ、SNSではそれぞれが交わることのない「真実」や「正義」を掲げる。――そんな世の中ではとかく嫌われがちな、しかしそんな世の中にこそ必要なはずの【DD(どっちもどっち)】な思考から、日本や世界がいま抱えている社会問題に鋭く斬り込む