新型フィアット・ドブロは“走る道具箱”!? 日本車では得られない“MPV”の魅力に迫る
一部改良を受けたフィアット「ドブロ」に、サトータケシが乗った。イタリアンMPVの魅力に迫る。 【写真を見る】新型ドブロの内外装(17枚)
3兄弟の違いとは
フィアットのMPV(マルチパーパス・ヴィークル)、ドブロがマイナーチェンジを受けた。 ご存知のように、このクルマはシトロエン・ベルランゴ、プジョー・リフターの兄弟車。3兄弟の中では日本への導入が最も遅く、2023年5月より販売されている。この3兄弟はそれぞれ定員5名の2列シート仕様と、定員7名の3列シート仕様がラインナップされるなかで、本日の試乗車は前者となる。 外観の変更点は、これまで赤地に白抜きだったフロントの“FIAT”のロゴが、新世代のものに改められていること。もうひとつ、そのロゴと左ヘッドランプの間に1980~90年代のフィアット車を彩っていた4本ラインのエンブレムがあしらわれていることも変更点だ。懐かしい……。 インテリアに目を移せば、10インチのタッチスクリーン式ディスプレイのインフォテインメントシステムが刷新された。ほかに、シートにシルバーのラインが入ることなどが目新しいけれど、内外装ともに大きな変更はない。 内外装よりも大きな変化を感じたのがドライブフィール。まず、1.5リッター直列4気筒ディーゼルターボと8段ATを組み合わせたパワートレインが、洗練されている。停止状態から発進する際の加速が滑らかで、心地よく速度を積み上げていく。エンジンとトランスミッションのマッチングは上々で、微妙なアクセルワークに対しても、ピックアップがいいから気持ちよく運転出来た。 乗り心地もホメたい。単純に乗り心地がよくなったというよりも、足並みが揃ったという感じで、4本のタイヤがドタバタせずに整った走りを見せる。エンジン音、タイヤからのロードノイズ、ボディの風切り音といったノイズも、マイチェン前より穏やかになっているように感じる。この3兄弟は乗用車としても商用車としても使われることを前提に開発されているけれど、“乗”に力を入れたという印象だ。 また、この3兄弟は基本構造だけでなく、コンポーネントも基本的には共通。だから、フィアットは明るく元気、シトロエンだからしっとり、ということもなく、ドライブフィールはほとんど変わらない。3モデルとも、4本の脚が自由に伸び縮みして結果的にフラットな姿勢を保つ、フランス風味だ。 ま、フィアットはイタリアらしく朗らかに、シトロエンはまったり、プジョーはキビキビと、キャラクターをわけたほうが面白いっちゃ面白いけれど、限られたリソースでいいクルマを作ろう、既存モデルをリファインしようと考えるならば、このやり方は効率がいい。そしてその狙いが見事にハマり、ドブロはしっかりとリファインされた。筆者が経験したなかでは、史上最も乗り心地がいいフィアット車だ。 興味深いのは、中速コーナーの連続を気持ちよく駆け抜けること。じわじわとロールしながら、きれいにコーナーを曲がる。操舵に対する反応も正確で、前述したようにパワートレインのレスポンスもいいから、ファン・トゥ・ドライブ。これならクルマ好き、運転好きの方でも満足できるはずだ。 ミリ波レーダーが追加されたことで、運転支援機能が充実したこともトピック。前を行く車両に追従するアダプティブクルーズコントロールシステムは、完全停止してから3秒以内なら操作不要で再発進するようになった。また、少し右寄りとか、あるいは少し左側というように、車線内の位置を維持するレーンポジショニングアシストが追加されたので、高速道路での渋滞や長距離ドライブでの披露は軽減されるはずだ。 3兄弟のドライブフィールはほとんど同じと記したけれど、デザインや装備の違いでしっかりと差別化を図っている。プジョー・リフターは、悪路や雪道走行に対応する「アドバンスドグリップコントロール」という機能を備え、外観もSUVを意識したアウトドア派。シトロエン・ベルランゴは、最近のシトロエンと同様にデザインや色使いにこだわったお洒落派。そしてシンプルな造りのフィアット・ドブロは、道具箱の趣だ。クルマの整備やレストアを趣味にする方ならツールボックス、釣りがお好きな方だったらタックルボックスで、自分の色に染める楽しさが味わえる。
文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)