”医師”と”製薬会社”がグルになって不正を…《癒着》が引き起こした恐るべき薬害『クロロキン事件』とは
「裁判官」という言葉からどんなイメージを思い浮かべるだろうか? ごく普通の市民であれば、少し冷たいけれども公正、中立、誠実で、優秀な人々を想起し、またそのような裁判官によって行われる裁判についても、信頼できると考えているのではないだろうか。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 残念ながら、日本の裁判官、少なくともその多数派はそのような人々ではない。彼らの関心は、端的にいえば「事件処理」に尽きている。とにかく、早く、そつなく、事件を「処理」しさえすればそれでよい。庶民のどうでもいいような紛争などは淡々と処理するに越したことはなく、多少の冤罪事件など特に気にしない。それよりも権力や政治家、大企業等の意向に沿った秩序維持、社会防衛のほうが大切なのだ。 裁判官を33年間務め、多数の著書をもつ大学教授として法学の権威でもある瀬木氏が初めて社会に衝撃を与えた名著『絶望の裁判所』 (講談社現代新書)から、「民を愚かに保ち続け、支配し続ける」ことに固執する日本の裁判所の恐ろしい実態をお届けしていこう。 『絶望の裁判所』 連載第5回 『東大に合格し在学中に司法試験にも合格…「エリート街道」を駆け上がった法学者が「本当はやりたかった事」』より続く
薬害裁判で明らかになった闇
1979年に裁判官に任官し、判事補(裁判官は、最初の10年間は判事補、その後は判事となる。もっとも、実際には、6年目からは、いわゆる特例判事補として、判事と同様に一人で普通の裁判ができるようになる)として東京地裁に就任した私は、ただちに、大規模薬害訴訟事件の一つであるクロロキン薬害訴訟事件に携わり、右陪席(合議事件についての右陪席。法廷で裁判長からみて右側に座るのでこう呼ばれる。左側に座るのが一番若い左陪席であり、この時点の私である)と分担して長大な判決を書いた(1982年〔昭和57年〕2月1日東京地裁判決)。 この事件の証拠に現れた製薬会社の利益一辺倒と消費者の健康無視の姿勢、薬事行政のずさんさ、薬剤の有効性を裏付ける論文を書いた大学病院医師たちと製薬会社の金銭がらみの癒着は、驚くべきもの、目に余るものであった。判決では、国の責任をも認めている。 日本を震撼させた衝撃の名著『絶望の裁判所』から10年。元エリート判事にして法学の権威として知られる瀬木比呂志氏の新作、『現代日本人の法意識』が刊行されます。 「同性婚は認められるべきか?」「共同親権は適切か?」「冤罪を生み続ける『人質司法』はこのままでよいのか?」「死刑制度は許されるのか?」 これら難問を解き明かす共通の「鍵」は、日本人が意識していない自らの「法意識」にあります。法と社会、理論と実務を知り尽くした瀬木氏が日本人の深層心理に迫ります。