アフターコロナの「大」問題…外国人観光客で溢れる「渋谷駅」周辺はどこのトイレも「使用中」
落ち着いた状況で
そして飲み会の会場となった居酒屋でも、40人分あまりの客席はすでに満席。その割にトイレはたった一つしかなく、終始大混雑し、トイレの前には常に列ができていた。我慢の限界なのか、ノックを繰り返す「ノック攻撃」や、ドアノブをガチャガチャ回して使用者にプレッシャーをかける「ガチャガチャ攻撃」を繰り出す人の姿も。 こんな状況ではとても用を足すのは不可能だと悟った私は、結局、飲み会終了後、自身が泊まるホテルに戻ってから済ませた。正直、これは我が25年の渋谷ライフでも経験したことがないものだ。 もちろん、商業施設でも居酒屋でも「空くのを待てばいい」という声もあるだろう。だが、大便をするために行列を作り、その最中も外で並んでいるであろう次の人に早く譲らなくてはならない、という状況で大便をするのは、私には抵抗がある。出している最中にノックされ、急かされるのも不愉快だし、終了後、次の人に「お待たせしました」と声をかけても「チッ」と舌打ちされたり、睨まれたりする始末。大便というものは、誰からも邪魔されない落ち着いた状況の中で、心ゆくまで出したいものだ。
オーバー便ツーリズム
そもそも、大便をするという状況自体が、皆切羽詰まった状況なのである。お互い様の話なので長時間(5分程度であっても)占拠するのは憚られるもの。だからこそ空いているトイレを求めて彷徨ったわけだが、渋谷滞在中の3日間、外で快適に大便ができたことは一度としてなかった。 さらに、問題はもう一つある。トイレの大混雑の結果、従業員が頻繁に掃除をすることができず、不衛生な状態に陥っていることが多いのだ。何しろ客がひっきりなしに大便をするほか、居酒屋では嘔吐もあるため、男性用の大便器はとにかく汚い。かつては「他国に比べてトイレが綺麗」というのが日本の長所として挙げられていたが、私の感覚ではそれはもはや過去のものである。 こうした事態こそ、まさにオーバーツーリズム、否、オーバー便ツーリズムの弊害なのではなかろうか。現在の日本の観光地は、もはやこれまでの社会インフラだけでは支えられないレベルの混雑になっているのでは……。と、トイレを探し彷徨いながら思い至った次第である。 「渋谷大便器問題」、一見間抜けな語感ではあるものの、今後の日本のあり様を考えるうえで、決して看過できるものではない。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。 デイリー新潮編集部
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