[ハリウッド・メディア通信] 日米キャスティングが際立つ AppleTV+ 配信新シリーズ SFダークコメディ「サニー」
孤独、孤立感を乗り越える女性たちの友情が主軸
このシリーズを立ち上げたのは、女性の脚本家、プロデューサーたち。ショーランナー兼 制作総指揮のケイティ・ロビンスは常に、大災や破局などに直面した人たちが、逆境をどう乗り越えていくのかに興味を持っているそうで、原作を読んでアイディアを暖めていた。SFというジャンルには当てはまらないような漠然とした原作の世界観と、飛行機事故で愛する家族を失ったアメリカ人女性のスージーの引きこもり、近未来の京都、AIとの意思の疎通という題材に惹かれ、原作の新型家庭用ロボットを女性に変えて、京都を舞台にダーク・コメディとして書き直すことでシリーズのビジョンが確立したという。監督ルーシー・ケルティニクもプロデューサーを兼務していて、奥が深い京都文化の下で、SFチックなラブ・ストーリーを撮る作業は、日本そのものを登場人物にするようだったと語っている。大好きな鈴木清順の『東京流れ者』にオマージュを捧げるようなエピソードも入れ込められたと、日本での撮影に満足している様子。カラフルなノアール映画の色彩と現在流行りの70年代ファッションは、女性クリエイターたちのセンスが光るシュールなドラマに仕上がっていて、日本人なら分かる昭和歌謡の歌詞に心を弾ませられるシーンがふんだんにある。 日本で開催されたAppleTV+「サニー」特別試写会では、サニーの声を演じたハワイ日系アメリカ人女優ジョアンナ・ソトムラも制作の裏話を披露。新型家庭用ロボットはサニーという名前の通り、明るく太陽のような丸顔で、絵文字のようなシンプルな表情。シリーズ撮影の期間、サニー専用のロボティックスのチームとともにスタンバイしながら、声だけでなく、顔の表情、とくに視線や口の動きなどをトラックし、パペティアによって、ジョアンナ演じるサニーの演技が操作された。閉ざした心を開いてほしいと、スージーの周りを動き回るサニーの目は大きく、撮影中はできるだけ、まばたきをしないように気をつけなくてはならなかったのだそうだ。 サニーの仕草が、夫と息子が生存しているかもしれないという可能性を膨らませ、失踪の謎解きへと繋がっていくこの配信シリーズ。キャスティングを一年半ほどかけて行なったと話す奈良橋さん。「サニー」には多くの役があり、プロデューサー陣がネームバリューにこだわらず、主要な役だけでなく、エキストラまできちんと選び、あらゆる個性をもつ俳優を紹介できたという奈良橋さんは、ハリウッドで多様化したユニークなコンテンツが増えている昨今、海外でも活躍できる新顔発掘に意欲的である。
文 / 宮国訪香子