セブン井阪社長「売却検討ではない」 IPOしてもヨーカ堂は“身内”
「『取締役会において、イトーヨーカ堂株の一部売却検討を決議した』と報道されたが、そのような事実はない。あらかじめこの点を明確にしたい」 【関連画像】イトーヨーカ堂の業績推移 東京都中央区のイベントホール「ベルサール汐留」で10日夕方に開かれたセブン&アイ・ホールディングス(HD)の2024年2月期決算説明会の冒頭。大勢の証券アナリストや記者を前に、同社の井阪隆一社長はこう切り出した。 セブン&アイHDは同日、24年2月期決算と共に中長期的な企業価値・株主価値の最大化を実現するためのアクションプランも公表した。23年3月に立ち上げた、社外取締役でつくる「戦略委員会」からの提言を受けての対応だ。 中でも、メディアから注目度が高かったのが「SST事業の持続的成長のための有力な選択肢の一つとして、現実的に最速のタイミングでのSST事業のIPO実現に向けた検討を開始します」という文言だ。 「SST」というのはスーパーストアの略称。具体的にはセブン&アイHDの祖業でもあるヨーカ堂や、食品スーパーのヨークベニマルなどを指す。これらの会社を傘下に収める中間持ち株会社を設立し、新規株式公開(IPO)を検討していくというわけだ。順調に進めば、手続きの要件がそろう27年度以降に申請できる。 ヨーカ堂は総合スーパーとして国内の店舗数が182店まで拡大したものの、専門店やネット通販の台頭によって業績が低迷。24年2月期まで4期連続の最終赤字といった厳しい状況が続く。 井阪氏は「独自の財務規律を維持しながら、自分たちで成長のための投資ができる形態が一番ふさわしいと戦略委員会の提言があり、我々もそういう結論に至った」とメリットを強調した。 IPOすればセブン&アイHDの持ち分の一部が手放されることになるので「売却する」と捉えることもできる。ただ、同社関係者の一人は「『分離して外部に株を売り払う』というのとはニュアンスが違う。自主性を持って成長資金を捻出し、変革していくんだということ。井阪社長はそこにこだわったのだろう」と話す。 ●「15%未満の持ち株比率ではだめ」 IPO実施にあたっての条件も明確にした。それは、セブン&アイHDがSST事業を束ねる中間持ち株会社の株を一部保有すること、コンビニ事業との食品開発領域における協働体制を維持することだ。 というのもコンビニのセブンイレブンにとって、ヨーカ堂を含むSST事業は競争力の源泉だからだ。ヨーカ堂にはオリジナル商品の開発ノウハウや、取引先との長い信頼関係があり、それがセブンイレブンのプライベートブランド(PB)や冷凍食品などに生きている。足元でもセブンイレブンとヨーカ堂は連携して新型店「SIPストア」を出店した。通常のコンビニよりも面積を約1.8倍、アイテム数を約1.7倍にした店舗で新商品も販売。生鮮食品や温かい軽食などを求める消費者ニーズを確認できたという。 セブン&アイHDは「『食』を中心とした世界トップクラスのリテールグループ」を目指しており、ヨーカ堂のこの強みは手放せない。井阪氏は「連結にはこだわらないが、グループからは離脱しない。シナジー(相乗効果)を創出できる持ち分比率を検討する。15%未満ではだめだ」とした。