押切蓮介が描いた「サユリ」を映画監督・白石晃士が映画化へ。押切「自由にやってほしいっていう気持ちもあったんですけど...」
押切蓮介原作のホラー漫画「サユリ」は、怨霊・サユリに憑かれた家に引っ越した神木一家に降りかかる悲劇と、残された少年・則雄とその祖母が、サユリに逆襲していくさまを描いたホラー作品。ホラー漫画ファンにとって見逃せない作品の1つと言える本作は、監督に白石晃士を迎え、制作された映画「サユリ」が2024年8月23日(金)に全国公開が予定されている。 【写真を見る】お互いにシンパシーを感じるも「サユリ」の映画化で直接挨拶をしたという2人 今回は、押切と白石にインビューを敢行し、「サユリ」の実写映画化が実現するまでの経緯や、ロケ地の家の選定などの裏話、クリエーターである2人のアイディアを生み出す工夫や苦労を語ってもらった。 ――原作者の押切先生、作品をご覧になった感想を教えて下さい 押切「最高でした!僕が見たかった邦画はこういうものだって原作の漫画を描かせてもらったんですけど、見事に体現してもらえたなと。もちろん、白石節がたくさんあるんですが、それは白石監督ファンとして楽しめたし、満足しました。久しぶりに余韻が残る映画だなって。Jホラーで余韻が残ることはあまりなかったので、それが自分の原作の映画化で成されたことは嬉しく思っております...光栄です。感無量です。僕の人生のピークですね」 ――押切先生の感想を受けて、白石監督の今回の作品の手ごたえは? 白石「今までに作ってそうな作品なんですけど、結局こういうものを作る機会がなくて本当にバシッとハマる原作を預けていただけて、映像化できたことがすごく嬉しいです。そして、ちゃんと全国で公開されて、観た人の心の中にいろいろ残せるものはあるんじゃないかと思います。日本のホラーの今後の方向性としても、少し違うものを出せたんじゃないかと思うので、プロデューサーの皆さんへ『こういうのも面白いですよ』ってプレゼンできるんじゃないかと...そこも含めて嬉しいなって思ってます」 ――押切先生は、原作を最初描いた時に「映画的に作品を描いた」とコメントされていましたが、映画化を狙っていたのでしょうか? 押切「(今までの作品で)狙って描いた作品は1個もないはずなんですけど、とにかく自分の映画を撮りたいっていう気持ちは昔からあったんです。だけど、現実的では無いと...漫画は1人で表現できるので、僕の理想を映画的に漫画に描いていました。特に『サユリ』が一番それが如実に表れているっていう作品です。ずっとJホラー映画に対して疑問視していて、人間側の負け戦が続いていているJホラーの連鎖をなかなか止めてくれないなって。圧勝はしなくても、ハッピーエンドで終わる映画はいくらかあったんですけど、ちょっとご都合主義だなって。普通の霊媒者でも何でもない人がこの世の者じゃない者に真剣に立ち向かう映画がとにかく見たかったんです。それで、『コワすぎ』を観ていた時にあれ?口裂け女をバットで追いかけてる...この人と仲良くなれるかもしれないって思ったのが、白石監督です」 ――白石監督は5~6年前に原作をおすすめされて読まれたとのことですが、作品を読む前の押切先生の印象はどのようなものでしたか? 白石「その前に田坂プロデューサーから薦められた『ミスミソウ』を読んでて、『ミスミソウ』は面白いんだけども、自分は映像化には向かないと思いました。漫画として面白くて、実写としたらクリアしなきゃいけない変更しなきゃいけない部分がすごくたくさん出てくるので。そしたら別物になる気がするからこれはやんない方がいいと思う、みたいな感じのことをお伝えしていました。『サユリ』は本当にもうこれは映画化やりましょう!と思いました」 ――押切先生と同じでJホラーに「負け戦」を感じていらっしゃった? 白石「言葉は違うんですけど、Jホラーに対して不満はあります。自分もホラーを任される立場にあって、有名なホラー作品にも良い描写はあるけど『何が面白いのかな?』と思うことがあったんです。恐ろしい存在に人間がやられていくシーンで『なんで戦わないのかな?』って思っていました。今でも、低い制作費の範囲内で面白さを維持するホラーがヒットする可能性があるというのが日本のホラーの基本のスタンスです。戦うシーンを撮るとなると、お金も時間もかかってしまいます。でも、やっぱりそういうのが自分は面白いと思っていて。自分は主にアメリカのホラーで育っているので、みんな戦って、たとえ敗れることがあっても戦う姿が見られる。それがカタルシスになるんです。だから、日本の新しいホラーを観る時にちょっとつまんないと感じることが多くて、自分がやるならこういう風に人間をもっと強いキャラクターとして登場させたいっていう考えがありました。人間側のキャラクターが無個性であるというのもJホラーの定番です。プロデューサーが『もっと普通の人にしないか』と言うことが多いんです。ちょっと目立ったキャラクターを出すと反対されて、なかなかそういう作品を作らせてもらえないこともありました。『コワすぎ』シリーズも田坂プロデューサーと作った作品ですが、まさにそういうのを打ち破りたくて作った作品です。それを見て面白いと思っていただけた方の原作で、まさにそれが具現化されたのが『サユリ』です」 ――その5~6年前ぐらいから意気投合された? 白石「その頃はちゃんとお会いしたことなくて、何となくシンパシーを感じていて、しっかりお会いしたのは制作のちょっと前ですよね。撮影より1年くらい前ですか...」 押切「お互いがどんな人なのかっていうのはなんとなくわかっていた。僕は白石監督の作品を通してわかっていたつもりです!」 白石「『コワすぎ』の上映にいらしていたので、ご挨拶はさせていただきましたよね。僕の作品を好んでいただけているんだなとは思っていました。シンパシーを感じていたからこそ、その辺の会話をせぬままに、そういうのは当然のものとして、『サユリ』の脚本どうしましょうか?っていう話をしました」 ――今回の映画化にあたり、押切先生から白石監督ら制作陣にリクエストしたこと、映画化にあたってのこだわりはありますか? 押切「基本的には自由にやってほしいという気持ちがあったんですけど、最初の打ち合わせの時に僕が絵コンテ付きでいろいろ書いた気がします。理想を。赤入れをたくさんした気がします。今思えば、愚行を働いたなと(笑)。つまり、僕がネームを書いているときに監督が『ここはちょっと...』みたいなことをやっていたんじゃないかと思って後から考えると、あんまり口を挟むべきではなかったなと思いました。『ミスミソウ』の時は全く何も言わなかったんです。でも『サユリ』に対してはすごく思い入れが強すぎて、とにかく僕は全員のオーラが見たいという気持ちで描いた漫画なんです。その漫画が本当にJホラーになったら、やっぱり気持ちも躍るじゃないですか。だから口を挟みたくなるんです。意見を何か言った記憶もあります」 ――そのリクエストを受けて白石監督が感じたことは? 白石「あんまり覚えてないです(笑)。でも、打ち合わせの前にかなり意見交換しましたし、『これ、いいですね』っていうのがかなりあったので。俊が死ぬ場所は当初は河原で場所が離れていたんですが、家庭内で目に見える形に変更したりとか...」 押切「俺が、風呂で良いんじゃないって、その方が撮影がスムーズにって...なぜかそういうところ気が回るんですよ(笑)。」 白石「最終的にはこの建物の構造は、撮影現場の物件を見てから、ここで落としたらいいんじゃないって言ってたんですよ。あれはあれですごい良かった」 ――本作はアクションがあったりなど多様な魅力がありますが、お二人それぞれの立場から原作と映画の魅力を教えてください 押切「ただのホラー映画じゃねぇぜっていうのがとにかくありますね。普通のホラーじゃないっていうのを思い知ってほしい。ホラー映画が怖いのは当たり前だし、みんな怖い思いをしたくて観に来てるから怖くて当然なんです。それだけじゃ終わらないっていうのを思い知って観てほしいし、新しい感覚にもなってくれるはずだし、勇気づけられるんじゃないんですか。日常生活でいないはずの幽霊におびえてる人達が『もう大丈夫だ』って気持ちになってほしい。とにかく、勇気づけられてほしい。あとは、原作が今まで描いた作品で一番好きなので、思い入れがあるし、読み返すとうるっと来るものがあるんですよね。それと同じ感覚が映画でも感じられると思う。Jホラーで3回泣いたのは初めてなんですよ。Jホラーは辟易として、ただボコボコにされる人間を見続けて、ああ人間かわいそうな目にあって、この世の者じゃない者の気持ちが勝っちゃったねって終わってたんですよね。でも、そうじゃない、生きている人間の気持ちももっとすげえんだぞっていう矜持を見せつけられたと思います。白石節が凄い映画だと思うんですよ。それは普通に白石監督ファンとしても楽しみです」 白石「原作はやっぱり押切さんの絵柄が基本的に可愛らしくて、漫画ならではの魅力があります。そういう中で恐ろしい出来事をかなり直球で描いているということの魅力がすごくあると思います。霊的な恐怖にしろ、暴力的な恐怖にしろ。そして、内容に関しては、霊的なものに人間が生命力で打ち勝つという前半と後半でくっきりした構成が魅力です。自分も実写映画にする上で、変更した部分はありますが、基本的には漫画からシンパシーを感じられた要素を、映画でも感じ取れるようにしたいと思って作りました。その辺は似た感覚を得られたとおっしゃっていただけたのはすごく嬉しいですし、上手くいけたんじゃないかなと思います。自分の作品としてキャリアの節目となる作品が出来たなと思っているので、とにかく嬉しいし、観てほしいですね。原作を読んでいない方も、ぜひ原作を読んで、両方味わっていただきたいです!」 ――ロケ地の家はかなりのリサーチをもとに決められましたか? 白石「制作部に探し回ってもらって、相当探し回った末に見つけた家です。なかなか物件内容に合致するものが見つからず、最後の最後にやっとたどり着いた家でした。あの伊東の地にみんなで宿泊して撮影しました。周囲のロケーションも含めて、あの家はちょっと脚本を変えないといけない部分もありましたが、あの吹き抜けがむしろ利用できると思えたので、ただ単に内容を家に合わせるのではなく、家の個性を活かして新しいアイディアに繋げることができました。この家なら何とかなると確信して決めましたが、相当難航しました。」 押切「売り物件だったらしいので買おうかなってグッときましたけど、住むのは怖いなって。やっぱり恐ろしいですね。周りもなんもないし、空き家ばっかりでハチの巣が出来ていたりとか...ここ住んだりとかはできないなって(笑)」 ――原作者、監督とクリエイティブな仕事ですが、アイデアで悩んだ時に工夫されていることはありますか? 押切「今がまさにそうですよね。昔と比べると、才能は枯渇してるっていうか、ポンポン出てきた発想もやりきってしまった感がちょっとね...年老いてしまったんじゃないのかなっていう寂しさはあります。1カ月に8本の連載をしてた時は湯水のように出てきた発想が、今はないことがちょっと焦っております。さっきも言ったように、俺はピークだと毎年のように言っているんですけど、そんな寂しさはあるんですよ。何かしらいろんな作品を見たりとか経験したりとかした方がいいな。僕は劣等感が相当高いので、それがモチベーションに繋がるタイプなので、怒りとかが原動力だと。白石監督も絶対そうだよね、見てるとなかなか攻撃性は高い方だと思いますが...」 白石「それはそうかも(笑)」 押切「それがモチベーションとか表現に繋がったりするはず。怒りが欲しい!そして敵が欲しいです!(笑) 若い頃はライバルいたし負けたくないっていう気持ちが、強かったと思うんですよ。でも年齢を重ねて落ち着いてきて、ゆっくり過ごしたいなみたいな話になると、やっぱり作品にも影響してきちゃうんです。大学でね、いろんな創作系の仕事で食べていきたいっていう若者たちに、何か創作する上でアドバイスをくれって言われたんですけど『とにかく失恋をしまくること』『悔しい思いをすること』あと『敵を作りなさい』って言ったんですよ。それは今思えばすごい暴言に近い言葉だと思うけど、結構、真理だと思っています。そうすると面白い作品ができるんですよ。性格が悪い方がやりやすいのかもしれない...クリエイティブマンとしては、だから今ゆったりした気持ちではあるんですけどある程度の攻撃性をまた取り戻したい」 白石「アイディアが出てこないときは集中するという意味で、イヤホンをして音楽を大音容量で流して、音を遮断した状態で暗いところに入って、パソコンの画面に集中する。強制的にゾーンに入ります。結構きつい状態なので我慢してやらないといけないんですけど、我慢を超えたら徐々にふわっとアイディアが出てくる。通常はスマホでNetflixとかYouTubeとかX(旧:Twitter)を見たりしながら、合間に作業するんですけど、もう時間もないときは無理やりゾーンに入ることをやってます。時間に余裕があれば、誰かと会って話すと、そこで何か新しいもの、リフレッシュと新しいアイディアが何か出てきたりする。もう1つ重要なことは、アイディアが何も思いつかなくても、その時点でわかってること、思いついてることを全部書き出すと、それに連なってだんだん他のものが見えてきたり、何かを思い出したりすることがあります。あとは映画を観るとか」 文=HOMINIS編集部
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