カーリング娘の活躍から何を学ぶか―日本的経営の新側面と笑顔の安全保障
グローバリズムとAIに対してのチーム
もうひとつ、このチームの特筆すべき点は、強力選手の選抜チームではなく、もともとのクラブチームであり、北見という街のチームであるということだ。 カーリングというゲームはクラブチームで登場するものであるらしく、いかにチームワークが重要であるかを表している。それはメンバーの運動能力もさることながら、長時間にわたって、緊張感を維持し、チームの和を維持し、最善の目的に対する強い意志を維持し、緻密な戦略と、精確な情報と、合理的な判断と、果敢な決断を実行する、政治や経営にも似た「氷上のチェス」といわれるゲームの特質である。 そしてそのチームが、遠い北の大地、オホーツクを見渡す北見(もともと北の海岸とされていた)という街から誕生したことはひとつの物語だ。場所の物語だ。そこには青森から故郷に戻ってこのチームを立ち上げた本橋麻里選手の物語があり、中部電力から移籍した藤沢選手の物語があり、他のメンバーとスタッフの物語もあるだろう。 北海道の場所の物語といえば、「網走番外地」の網走、「幸福の黄色いハンカチ」の夕張、「北の国から」の富良野などが有名だが、これに「カーリング娘」の北見が加わるに違いない。 すべからくグローバリズムに向かう時代、リージョナリズム(地域性を重視する建築用語でもある)の復権が見えてくる。すべからくAI(人工知能)に向かう時代、人間と人間のコミュニケーションの力が見えてくる。
笑顔の安全保障
『ドキュメント戦争広告代理店~ 情報操作とボスニア紛争』(高木徹・講談社文庫)を読んで、現代の戦争とその結果が、いかに多国間の関係によって、またいかにテレビや新聞といったマスコミによって左右されるかを強く感じた。 つまりこの時代の安全保障は、自国の戦力を強くするということ以上に、外交、宣伝、情報操作のウエイトが大きいのである。 アメリカの国際政治学者ジョセフ・ナイ教授(ハーバード大学特別功労教授)は、軍事力以外の文化的経済的な力としての「ソフト・パワー」を提唱している。知日派として日米関係を重視するが、あくまでアメリカを中心に太平洋の安全保障を推進する論理である。 筆者は長年、建築からの文化論を考えながら、自国の文化と異文化への理解こそ安全保障になるという、より長期的かつ広範な「文化安全保障」というようなことを夢見てきた。今回、小平奈緒選手の行動やカーリング娘の笑顔を見ていて、それが、他国の日本文化理解を深め、また日本人の他国文化理解を深めることにつながるような気がしたのだ。 アメリカとの連携も、自衛隊の強化もさることながら、日本国民が他国に理解され、他国を理解することが最大の安全保障ではないか。つまり集団的でも個別的でもなく「国民的文化的自衛権」である。 日本女性の笑顔は、最新鋭ステルス戦闘機F35以上に、日本の安全に寄与しているのかもしれない。