映画『ゲバルトの杜~彼は早稲田で死んだ』劇中ドラマ演出の鴻上尚史氏に訊く、現代の若い世代へ伝えたいこと
学生運動が終盤に掛かった1972年11月、早稲田大学第一文学部2年生の川口大三郎さん(当時20歳)が革マル派のリンチにより殺害された。各党派でエスカレートしていった「内ゲバ」とは何だったのか――。 その真相に迫った代島治彦監督『ゲバルトの杜~彼は早稲田で死んだ』が本日公開となる。池上彰、佐藤優、内田樹ら当時を知る知識人と早稲田大学に在籍していた人々による証言、そして事件を再現した短編ドラマを織り交ぜたドキュメンタリー映画だ。本作の劇中短編ドラマの脚本・演出を担当した鴻上尚史さんに、制作の経緯、当時と現代の若者の違いなどについて訊いた。(撮影/西崎進也) 【写真】「内ゲバ」に「テロ」…なぜ左翼は過激化して自滅したのか?
あれは何だったのかという思い
――今回、『ゲバルトの杜~彼は早稲田で死んだ』の劇中ドラマパートを演出することになったきっかけについてお聞かせください。 鴻上: 成田闘争の当事者たちを追ったドキュメンタリー『三里塚に生きる』(2014)『三里塚のイカロス』(2017)『きみが死んだあとで』(2021)を撮った代島監督に誘われたことがきっかけです。 僕は『三里塚のイカロス』を見て、代島監督はきちんと目配せをしている人だと感じていました。例えば、運動側の人たちの証言だけ撮ってあるようなドキュメンタリーはありますが、この作品は、自宅に時限爆弾が仕掛けられて愛犬を殺されてしまった空港公団の幹部、つまり運動により傷付いた人も描いていました。 と同時に「あれはいったい何だったのだろう?」という僕と同じ問題意識を持っている人がいたと。代島監督に、「学生運動と三里塚にアプローチしたのだから、次は内ゲバを取り上げて下さい」と言いました。その時に、大宅壮一ノンフィクション賞受賞作『彼は早稲田で死んだ~大学構内リンチ殺人事件の永遠』(文藝春秋刊)という本を紹介したんです。 学生運動も内ゲバもそうなのですが、なぜあのようなことが起こって、それが今にどうつながっているのかということを知りたかったのです。 それは、代島監督の次の作品『きみが死んだあとで』の上映会の対談に登壇した時なのですが、その会場に、『彼は早稲田で死んだ』の著者、樋田毅さんが来場されていました。 樋田さんは中核派と疑われて殺された川口大三郎さんの1学年後輩で、事件後、革マル派による暴力支配と戦い、当時の様子を本にしていた。上映会後、樋田さんから渡された本を読んだ代島監督から「事件を題材にした映画を撮るので、『川口大三郎が殺された日』を描いて欲しい」と依頼がありました。これがスタートでした。