「戦国時代」の女子バドミントン、4強の一角・山口茜が目指す「三度目の正直」
[エース出陣]<5>バドミントン女子 山口茜 27 再春館製薬所
夏のパリ五輪が開幕するまで1か月を切った。目前に迫った大舞台で、注目競技の日本のエースたちはどんな戦いを挑もうとしているのか。担当記者が紹介する。 【写真】全英オープンで準優勝した山口茜(3月)
一足早く足を踏み入れた五輪会場の感触は悪くない。3月、パリ市北部に完成したばかりのアリーナで本番のテスト大会を兼ねて行われたフランス・オープンに出場し、シングルスで準優勝。奥行きを感じさせる新設のコートは、「やりやすかった。空間が広いと、プレーも『大きくやろう』という意識になり、縮こまらずに済む」。持ち味の躍動感をより発揮できそうな手応えがある。
準決勝で対戦したのは、東京五輪金メダルの陳雨菲(中国)。穴の少ない正確なラリーを展開する強敵を緩急やスピードで揺さぶり、2―1で制した。決勝は世界ランキング1位の安洗塋(アンセヨン)(韓国)に惜敗したものの、翌週の全英オープン準決勝では2―1で見事にリベンジ。欧州遠征を2週連続の準優勝で終えた。
女子シングルス界は上位陣が高いレベルでしのぎを削っている。東京五輪で1、2位の陳雨菲、戴資穎(台湾)に、2022年に世界選手権を連覇した山口、成長著しい安洗塋を加えた4強が抜きんでている。これに、故障を乗り越えて復活した元世界女王でベテランのカロリナ・マリン(スペイン)が加わり、まさに戦国時代の様相だ。日本代表の朴柱奉(パクジュボン)監督は「実力が伯仲していて差がない。誰が勝ってもおかしくない」と話す。
その中で、山口の強みは多彩な「仕掛け」だ。鋭いスマッシュと相手の前に落とすドロップ、フットワークを駆使した変幻自在な攻めで、「相手のペースをどこまで崩せるかが鍵になる」(女子シングルスの今別府香里コーチ)。27歳で迎える3度目の大舞台で円熟の技術を総動員する。
ともに8強で敗れた過去2大会は、悔し涙とともに閉幕。特に金メダルの期待を背負い、準備を尽くした東京大会の記憶はひときわ苦い。今回は「終わった時に『楽しかったな』と思えたら、もう100点。流れに身を任せる」と気負わず、自然体で力を出し切ることだけに集中する。