「新幹線の線路使用料」なぜ今見直し?「JRの負担増」提案する財務省の狙い
財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会の財政制度分科会は10月28日、JR各社が国に支払う整備新幹線の線路使用料である「貸付料」の見直しを提案した。開業時の設定が30年間変わらない現行制度がなぜ今、検討の対象となったのか。財務省の狙いを考えたい。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也) 【この記事の画像を見る】 ● 財政制度等審議会が 貸付料の見直しを提案 10月28日、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会の財政制度分科会は、JR各社が国に支払う整備新幹線の「貸付料」について、開業時の設定が30年間変わらない現行制度を見直すべきだと提案した。財務省は分科会の提案をふまえ、次の契約更新や新規着工に向けて具体的な内容を検討するという。 翌29日、斉藤鉄夫国土交通大臣は定例会見でこの件について問われ、「昨日の財政制度等審議会財政制度分科会において、整備新幹線の整備や貸付料のあり方について、ご議論が行われたと承知しています」とした上で、「まだ議論が行われている最中と認識しています」と述べ、コメントを控えた。 分科会の議事録はまだ公表されていないため、財務省の諮問に対し、どのような審議が行われたかは定かではないが、財務省が提示した資料が公表されているので、これをもとに財務省の狙いを考えたい。
● 整備新幹線の建設において 貸付料のスキームが構築された理由 まずは基本事項を確認しておこう。整備新幹線は国の公共事業として整備され、各社に貸し付けている。重要なのは整備新幹線の建設はJR各社が望んだものではなく、むしろ否定的だったことから構築されたスキームであるということだ。 輸送需要の大きい東海道新幹線は国鉄に大きな利益をもたらしたが、オイルショック後に建設された東北新幹線の建設費は2.8兆円、上越新幹線は1.6兆円に達し、巨額の赤字を垂れ流した。輸送需要がさらに少ない整備新幹線の建設は国鉄末期に凍結されたが、それは新幹線を誘致したい与党代議士としては死活問題だった。 しかし、JRに「赤字新幹線」を強いることは、国鉄の二の舞いとなり、国鉄改革の精神に反するとして、鉄道建設公団(後に現在の鉄道・運輸機構に改組)が整備主体となって建設を担当、JRが営業主体となって運行を担当する上下分離方式を採用し、建設の再開が決定した。 新線建設における最大の負担は、資金調達に係る利息や減価償却費などの資本費だ。逆に言えば、資本費を含めると経営が成り立たない路線であっても、整備と営業を切り離す上下分離を採用することで、事業者の資本費負担は大きく軽減し、事業として成立する。 とはいえ、税金で建設した設備でJRに金もうけをさせるのが目的ではない。そのため、JRは整備新幹線の開業によって生じる「受益」、具体的には整備新幹線で得られる利益と、並行在来線の経営分離による収支改善分(赤字の減少)の合計を「貸付料」として支払わなければならない。 ● 30年で貸付料がタダになるとは 国交省もJRも考えていない 貸付料は開業時に需要予測から算出され、30年間定額で支払う。例えばJR東日本は年間、東北新幹線盛岡~八戸間に79.3億円、八戸~新青森間に70億円、北陸新幹線高崎~長野間に175億円、長野~上越妙高間に165億円を支払っている。 このうち、高崎~長野間の事業費は約8282億円だったので、JR東日本は30年間で5250億円を負担する。後述のように貸付料が50年に延長されれば総額8750億円となり事業費を超えるが、貸付料はあくまで受益の対価であり、その区間の建設費返済を目的としていないので、支払いが事業費を超えることも起こり得る。