雇用の悪化阻止に軸足を移したFRB:「政策を調整する時が来た」(ジャクソンホール)
年内0.5%幅の利下げ実施の可能性
パウエル議長は、2021年に明確になった物価高騰を当初は一時的と断じ、利上げに転じることが遅れてしまった、という苦い経験がある。今回は雇用悪化への対応が遅れて、政策対応が後手に回るという同じ失敗を繰り返さない、という意識が強いのではないか。現状ではそこまで雇用の悪化、景気の悪化を示す証拠はないが、それらが確認できれば、早めに対応するという考えが強いのだろう。 また、雇用・景気の悪化に先手を打つため、通常の0.25%ではなく0.5%幅での大幅利下げも実施する考えが、今回の講演で示唆されたと考えることも可能ではないか。 講演後に金融市場では年内1.0%の利下げが8割程度の高い確率で織り込まれた。9月から毎回の会合で0.25%ずつ利下げが行われても年内の利下げ幅は0.75%であるが、市場は0.5%幅の利下げが相応の確率で年内に行われると予想しているのである。 9月17~18日の次回FOMCでは0.25%の利下げが実施されると見ておきたいが、仮に9月6日に発表される8月分雇用統計が再び下振れれば、0.5%の利下げが実施される可能性が高まるだろう。金融市場の8月分雇用統計への注目は非常に高い。
米国景気悪化懸念で日本の急速な円高・株安の連鎖再燃の可能性も
パウエル議長の予想以上にハト派色が強い講演を受けて、金融市場で先行きの利下げ観測が一段と強まったことから、為替市場ではドル安円高が進んだ。1ドル146円程度から1ドル144円程度まで2円程度も一気にドル安円高に振れた。この先FRBの利下げが進む中、年内に1ドル130円台まで円高が進む可能性が出てきたと考える。 23日の米国株式市場は、FRBの利下げ期待に支えられて株高となったが、今後、雇用統計などで景気の悪化リスクが再び意識されれば、8月上旬に見られたように米国株価も下落傾向が強まる可能性がある。その場合、日本市場でも急速な円高・株安の連鎖が再び強まるだろう。米国の経済指標が、日本の金融市場を大きく左右する状況がしばらく続く。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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