育成選手制度の10年、そしてその改善点とは?
本来の目的とはずれが生じ始めている
野球の裾野の拡大、そして隠れた逸材や将来性が期待できる選手を育成するという目的で導入された育成選手制度だが、「本来の目的外」ともいえる使用方法が広がってきている。それが支配下選手の育成再契約や他球団を戦力外選手となった選手との育成契約である。 表2は全育成選手における支配下選手登録経験者つまり通常のドラフトで入団後、ケガや実力不足という理由で育成選手に変更された選手の割合の推移を表したものである。育成選手が50人を超えた2009年以降ではその割合がほぼ右肩上がりに増え続けていることがお分かりいただけるだろうか。 この変則的ともいえる使用方法を最初に行ったのが巨人だった。実は初年度の2006年から2人の支配下選手の登録を育成契約に変更、以後も毎シーズン数名の元支配下の育成選手を登録している。この形での育成制度の利用は徐々に他球団にも広がり、今シーズンは9球団に元支配下の育成選手が所属している。 制度がなければ解雇され完全にチャンスがなくなっていたところが、もう一度チャンスをつかむ可能性が残されるということで、選手にとっては非常に恩恵が大きいことは間違いない。とくに大きな故障に見舞われた選手にとっては再起のために欠かせない手法になりつつある。実際に巨人時代の脇谷(西武)や阪神の狩野、広島の河内といった選手が復帰を果たしている。 ただ、これが「育成」といえるのかという点については、大きな疑問がある。育成ドラフトで入団した選手たちとは明らかに立場の違う選手を制度上同じ枠で扱っている点については改善の余地があるといわざるをえないだろう。
ブルペン捕手や打撃投手も「育成選手」?
そして今シーズンはさらに制度の規約上疑問符が付きかねないケースが発生した。楽天とヤクルトが主にファームの選手不足の改善を目的としてブルペン捕手や打撃投手と育成選手として契約したのである。 これのどこに疑問符がつくのか? 実は野球協約の育成選手に関する規約には育成選手の定義(第2条)として「~支配下選手として連盟選手権試合出場可能な支配下選手登録の目的達成を目指して野球技能の錬成向上およびマナー養成等の野球活動を行うため、球団と野球育成選手契約(以下「育成選手契約」という)を締結した選手をいう。」(抜粋)とある。「支配下選手登録の目的達成」が育成選手の定義として決められている以上、二軍の試合実施“のみ”を目的とする育成選手は制度上正当なものとは言えないのではないだろうか。 もちろん今回のケースが全く支配下選手登録の可能性を持たないとはいえない。試合に出る以上、選手は活躍して勝つためにプレーするのであって、活躍し続けるのであれば元球団職員であっても支配下選手に復帰する可能性があることは間違いない。ただ、やはり「育成選手制度」という名称からは連想できない利用であることは確かだ。 このケースや、元支配下選手の増加を受けてNPBには是非制度の再整備を検討していただきたい。支配下選手ではない選手を保有できるという仕組み自体に問題は何もない。ただその「名称」と実際が一致しない現状を改善するために、育成選手とは別枠の保有枠、つまりMLBでのマイナー契約にあたる制度の導入などが望まれるところだ。 (株)日刊編集センター