中小企業経営者が知っておきたい「第三者承継」を成功に導くM&A戦略…事業譲渡・株式譲渡・企業価値評価の概要【公認会計士が解説】
後継者不足に悩む日本の中小企業の多くは、M&Aに関心を寄せています。ここでは、M&Aによる第三者承継に焦点を当て、M&Aによって企業価値を最大化させる方法や、事業譲渡から株式譲渡、企業価値評価等の概要について見ていきます。メガバンク出身の公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。 【早見表】年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
事業の成長・承継を目的に活用されるM&A
M&A、すなわち企業の合併および買収には多様な手法があります。これは、事業の成長や承継などを目的として活用されます。具体的な手法として、事業譲渡や株式譲渡に加えて、合併など組織再編の方法が選択されます。 例えば、株式譲渡では、現経営者が保有する株式を「譲受け側」に譲渡し、事業の継続性を保ちつつ、新たな経営体制への移行を図るものです。このプロセスでは、簿外債務が承継されてしまうこと、少数株主の同意を事前に得ておくことなど、さまざまな課題があります。 これに対して、事業譲渡の場合は、事業そのものが「譲受け側」に移転するため、個別資産や負債の承継だけでなく、従業員の雇用契約や知的財産権の移転も慎重に検討する必要があります。 そして、組織再編を通じた法人のM&Aでは、合併や株式交換、会社分割などがありますが、「譲渡し側」の株主が残ることになるため、その後の株式の現金化が問題となります。
マッチングからデューディリ、最終契約…M&Aの具体的な流れ
M&Aの手順としては、「譲渡し側」がM&Aの実施意思を固めることからスタートします。そして、「譲渡し側」とのマッチング、デュー・ディリジェンス、条件交渉と進み、条件に合意できれば、最終契約を締結します。 M&Aプロセスは、さまざまなステップを含み、多くの関係者が関与します。 M&Aの意向が固まると、経営者はM&A支援機関と協力して情報収集と相談を行います。ここでは、プライベートバンカーや専門家のネットワークが重要となります。企業は自社の財務状況や事業概要を開示し、専門家のアドバイスを受けます。 続いて、M&A専門業者やファイナンシャル・アドバイザーとの契約が行われ、マッチングや交渉の支援が行われます。 「譲受け側」を選定するためには、候補をリストアップして提案を持ち込む相手を選び、M&A支援機関に提案してもらいます。そのうえで、関心を持った候補が出てきたら、秘密保持契約を締結させて、「譲渡し側」の情報開示を行います。そのうえで、「譲受け側」に初期的な提示を行ってもらいます。これが「意向表明」で、譲渡価額、譲渡スキーム、スケジュール、買収後の運営方針などを提示させることになります。 「譲渡し側」が意向表明書に示された条件で合意できるのであれば、その段階で基本合意書を締結し、デュー・ディリジェンスを実施させます。デュー・ディリジェンスを通じて、「譲受け側」は「譲渡し側」の提供する詳細な開示情報を調査します。これには、財務デュー・ディリジェンス、法務デュー・ディリジェンス、事業デュー・ディリジェンスがあります。 「譲受け側」は、デュー・ディリジェンスで見つかった問題点を取引条件に反映させ、最終的な譲渡契約の交渉が行われます。大きな問題点が見つからなければ基本合意で示された譲渡価額がそのまま最終契約に反映されますが、大きな問題点が見つかった場合には、譲渡価額を減額することで合意するケースもあります。 交渉がまとまり、譲渡契約の締結が完了すると、クロージングが行われ、譲渡代金の決済や資産の移転が実施されます。 ポストM&Aのプロセスでは、「譲渡し側」の事業と「譲受け側」の事業の統合が進められます。これをPMI、ポスト・マージャー・インテグレーションをいいます。M&Aは長期間にわたる複雑なプロセスであるため、各ステップでの慎重な検討と、M&A専門家の支援が必要となります。
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