ディップ「時給10%増」の衝撃 スポットワーク市場に後から参入、勝算は?
採用から運営まで、包括的な支援へ
こうした既存サービスとの連携強化に加え、店舗運営の効率化支援も行う。従業員と店舗管理者のコミュニケーションを改善する「バイトルトーク」をアイリッジ(東京都港区)と共同開発した。現在はアルバイト連絡やシフト調整の基本機能を搭載し、今後は他店舗へのヘルプ調整機能なども始めるという。 既存従業員のシフト調整とスポットワーカーの活用は、一見すると相反するようだが、藤原氏は「内部で人員確保できない際に、スポットバイトルが補完的な役割を果たす」と説明する。
安全対策として「AI検知」「現場確認」を徹底
12月からの全国展開を控え、課題も見えてきた。現在は主にバイトルを利用している企業からの掲載が中心で、新規企業の開拓はこれからだ。競合サービスを既に利用している企業も多いことから、参入後発組としていかに市場を広げていけるかが問われる。 スポットワークの経験が浅いユーザーの中には、最初から複数の仕事に申し込んだものの、途中でリタイアしてしまうケースもある。オンラインで手軽に応募できるという特性上、起こり得ることだ。「1回目の就業のサポートをしながら、仕事を少しずつ始められるようにUIの改善も必要」と藤原氏は指摘する。 また、安全面での対策も重要だ。ディップは「闇バイトチェックAI」を提供しており、怪しい求人の検知に注力している。目視審査と比較して、約80%の時間短縮を達成したという。 加えて、掲載事業者の現地確認も重視しており、実際に9割程度は対面での確認を実施している。オンラインのみの場合も、実態に違和感があれば掲載を見送る判断を徹底している。「危険な事業者は対面での確認を避けたがる傾向にあるため、選別しやすい仕組みになっている」(藤原氏)
「月間のべ100万就業」を目標に
ディップはスポットバイトルで、「1年後に月間のべ100万就業」の目標を掲げている。「時給が高ければユーザーが集まり、結果として企業からの利用も増える。実際に働いた人数を増やすことが、サービス成長の鍵となる」と藤原氏は語る。 ただし、スポットワーク市場の単独拡大は目指していないという。むしろ、アルバイト・パート業界全体の活性化を視野に入れる。「将来的には、より多様な働き方の選択肢を提供したい。そのために必要なのがスキルの可視化。ユーザーのスキルを明確化することで、活躍の場を広げ、時給も上がる仕組みをつくりたい」(藤原氏) 大手企業の参入で、スポットワーク市場は新たな局面を迎えている。業界の先駆者であるタイミー、マーケットプレイス事業とフィンテック事業とのシナジーでポジションを築くメルカリハロなど、異なる強みを持つプレイヤーが市場を形成する。 その中でディップは、スポットワークを単独のサービスとしてではなく、既存の求人メディアと連携した採用プラットフォームの一つとして位置付ける。新たなアプローチは、働き方の選択肢を増やせるだろうか。 (カワブチカズキ)
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