8000年前の特殊な陶器はフォカッチャ用だった! 内側の模様は「パンを取り出しやすくする」工夫
バルセロナ自治大学(UAB)とローマ・ラ・サピエンツァ大学の研究者らによるチームは、シリアとトルコの間の地域にあるメズラア・テレイラト、アカルチャイ・テペ、テル・サビ・アビヤドの遺跡から出土した、紀元前6400年から5900年頃の特殊な形をした陶製のトレイを分析。その成果を学術誌「Scientific Reports」に発表した。 【写真】人生で一度は訪れたい世界の遺跡ベスト24 トレイは考古学者の間で「殻剥き用トレイ」と呼ばれる大きな楕円形のもので、ほかのものとは違って内側に規則正しく模様が刻まれている。
研究チームがトレイの陶片に付着していたフィトライト(植物に由来するケイ酸塩の残留物)を分析したところ、小麦や大麦などの穀物が粉に挽かれたものが検出された。また、有機残留物の分析から、一部のトレイからは動物性脂肪などの動物由来成分や植物性調味料が見つかった。それらの成分の劣化具合から、トレイが高温で焼かれたことが示唆された。残留物の多様さから、数多くの異なる「レシピ」が存在していたことが推測される。 また、研究者たちがレプリカを使って実際にフォカッチャを焼成してみたところ、ドーム型の窯で約2時間、初期温度420℃で焼かれた可能性が示された。内側にある溝は、焼けたパンを取り出しやすくするためだったと考えられる。さらに、出来上がったフォカッチャが約3キログラムと巨大なことから、共同で消費したことが分かる。 このトレイが見つかったのは、「肥沃な三日月地帯」という名で知られる気候が温暖かつ土壌の養分が多い地域で、人類最初の農耕・牧畜が紀元前7000年紀に始まったと考えられている。この研究論文の主席執筆者、セルジオ・タラントはUABの発表で、「私たちの研究は、古代の人々が自ら栽培した穀物にさまざまな材料を加えてフォカッチャを作り、それをグループで食べていた当時の社会の様子を生き生きと描き出しています。この研究成果から、フォカッチャの製法は新石器時代後期から約6世紀にわたって発展し、中東の広範囲に広まっていったと考えることができます」とコメントした。
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