グランカブリオには、このクルマでしか手に入れることができない「贅沢な時間」がある マセラティのオープンカーにエンジン編集部のムラカミが試乗!
オープンカー特集のトップバッターは、飛びきりエレガントで、けれど、すこぶるスポーティな走りを持った4座カブリオレ。日本に上陸したばかりの新型マセラティ・グランカブリオで山へ。 【写真10枚】マセラティのウルトラ・ゴージャスなオープンカー、グランカブリオの内装に思わずため息が! ◆オープンカーが似合う季節 オープンカーは秋が深まった頃から冬にかけての乗り物である。 そう思うようになったのは、自分でもオープンカーを所有して日常的に乗るようになってからだ。それまでは見かけの華やいだ雰囲気から勝手に想像して、光が明るく、気温が暖かくなる春から夏にかけての季節にこそ似合う乗り物だと思い込んでいた。 もちろん、そういう季節だってオープンカーで走るのは楽しいし、ルーフがなくて頭の上に空しかないというだけで、どんなに速いスポーツカーにも負けないような走る歓びを、すべての季節にもたらしてくれるのは間違いない。 しかし、それでもやはり、ベスト・シーズンはといえば、花粉が舞う春でも、じとじとした梅雨時でも、ギラギラした太陽が照りつける夏でも、長雨の秋でもなく、山に紅葉が始まる頃から、空気がピリッと引き締まり、夜空に星が美しくきらめくようになる冬にかけてだと、オープンカーに親しめば親しむほど確信するようになった。 とりわけ、カブリオレとかコンバーチブルと呼ばれるゴージャスなオープンカーにそれが当てはまるように思う。 そもそも屋根など持たないのが基本形であるロードスターやスパイダーであれば、年がら年じゅうルーフを開けて走っているのが正しい姿であり、実際にマツダ・ロードスターでレースに出ている時など、真夏でも屋根がないおかげで風に当たって涼しく走れて、熱中症にならずに助かったと思う経験を何度もしている。 しかし、ロードスターやスパイダーだって、いまやサーキットや峠道が本籍とばかりは言えず、むしろ、カブリオレやコンバーチブルに近いゴージャスな乗り物になってきているのではないか。 私が長年所有するポルシェ・ボクスターだってそうだ。乗り始めた頃こそ、いつでもルーフを開けて走るのが本来の姿だと意地でもオープンにして走っていたが、今では本当に気持ちのいい気候の時しか開けなくなった。そして、その回数がもっとも多いのが、秋から冬にかけての季節なのだ。 ◆誰もいない早朝の山へ さて、今回、私が担当することになったのは、日本に上陸したばかりの新型マセラティ・グランカブリオ・トロフェオである。エレガンスとスポーツ性能をあわせ持ち、辺り一面に色気ともオーラともつかぬ独特の空気を漂わせる、このゴージャスなオープンカーにもっともふさわしい舞台は、果たしてどんなシチュエーションだろうか。 実は私はすでに、北イタリアのマッジョーレ湖周辺で開かれた国際試乗会でこのグランカブリオに乗っている。初夏のイタリアの日差しはすでに真夏のように強く、オープンで走るには帽子が不可欠だったが、湖畔の道を窓も全開にして、肘をドアにかけながら流していると、湖から吹いてくる風が心地よかった。 風光明媚な高級リゾート地にやってきた観光客たちが、派手なオープンカーに乗る東洋人に視線を投げかけてくる。ニコッと微笑んで視線に応えるのが、こういうクルマに乗る人間の義務と言うべきだ、というのは言い過ぎとしても、そのくらいの余裕があってこそ似合うクルマだと思う。 今回、高級リゾート地の湖畔の代りに、東京・銀座のど真ん中を流して写真を撮ったらどうか、という案もあったのだけれど、北イタリアで乗った時、もっとも楽しめたのが5つの湖を見下ろし、遠くミラノの街までも望見できる山へと上るワインディング・ロードであったのを思い出した。その時は夏のバカンス・シーズンでモーターバイクや自転車で混み合っていたけれど、今度は秋が深まり紅葉しかけた山に、誰もいない早朝に行って撮影しよう。 というわけで、富士山のとある登山道へと向かうワインディング・ロードへ日の出前に着くために、前日の夜のうちに東名高速で御殿場へと向かうことにした次第である。 ◆「触れなば切らん」とは無縁 夜の高速道路では、ルーフを閉じたグランカブリオは、すこぶる快適な乗り物だった。かつての3200GTあたりのマセラティが持っていた「触れなば切らん」という風情の一瞬も気が抜けない繊細かつスリリングなハンドリングとは無縁の、むしろ重厚感あふれると言っていいドッシリと落ち着いた走りっぷりを見せる。それもそのはず、新型グランカブリオは先に出たクーペの新型グラントゥーリズモ同様、後輪駆動ベースの4WD車となっているのだ。 フロント・ミドシップに搭載されるエンジンは550ps、650Nmのパワー&トルクを発生するマセラティ自慢のネットウーノV6ツインターボ・ユニット。同じネットウーノを積むMC20とは違いドライサンプ式ではないのは、こちらは8段ATに組み合わされるからで、右側にオイルパンを突き抜けて前輪に動力を伝えるシャフトが通っている。 エア・スプリングを使ったサスペンションはクーペよりラグジュアリー志向の設定で、車高も10mm高くなっているというが、それでも始動時デフォルトのGTモードだと少し固いと感じる時があり、ゆったりと高速道路を流すならコンフォート・モードの方が気持ちいいと思った。 夜空を見たいと思ってルーフを開けたとしても、大人ふたりがゆったりと座る余裕をもった後席の空間の上にウインド・ディフューザーを取り付けて窓を上げれば、日本の法定速度で走っている限りは風の巻き込みもほとんどなく、快適なオープン走行を満喫することができる。 ◆君子豹変す、の軽快感 翌朝、まだ真っ暗な「道の駅」の駐車場でカメラマンと合流し、山道を目指す。徐々に明るくなっていくワインディング・ロードを、ルーフを開けたグランカブリオで上っていく時の気持ち良さは、筆舌に尽くしがたいものだった。気温は吐く息が少し白くなるくらい下がっていたが、幸いにもこのクルマにはシートヒーターも、ネックウォーマーも付いているからまったく苦痛を感じさせられることはない。むしろ、頭寒足熱ではないが、身体は温まりながら、頭のあたりを冷たい風が通り抜けていくのが、心地よかった。 やがて、撮影ポイントが決まると、その区間を何度も上下しながら走ることになった。ワインディング・ロードでは、やはりスポーツかコルサ・モードが走り易い。エアサスはコルサにするとローの設定になり17mm低くなるようになっている。脚が硬くなることよりも、ボディが低くなって重心も下がることの方が、峠道での走りの良さに繋がっていると思った。 ちなみに、逆にリフト・モードを使うと25mm車高を上げられるので、段差を超える時などにとても役に立つ。扉ページの写真でご覧のように、グランカブリオのナンバー・プレートは思い切り低い位置にあるので、リフト機構がなかったら、あっという間に傷ついてしまうだろう。 それはともかく、スポーツやコルサにすると、それまでの重厚感あふれる乗り味が薄れて、後輪駆動車のような軽快感が現れるのが君子豹変す、みたいでなんとも楽しい。ネットゥーノ・エンジンの野太いサウンドと、全長5m弱、全幅2m弱、車重1.9t超とは思えぬ軽快なハンドリングを満喫させてもらった。 そして走りながら、これはなんという贅沢な時間だろう、と独りごちた。グランカブリオを手に入れることは、こういう贅沢な時間を手に入れることにも繋がっているのだ。 文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=望月浩彦 ■マセラティ・グランカブリオ・トロフェオ 駆動方式 フロント縦置きエンジン4WD 全長×全幅×全高 4965×1955×1380mm ホイールベース 2930mm 車両重量(車検証) 1970kg(前軸1040kg、後軸930kg) エンジン形式 90度V6ツインターボ 排気量 2992cc ボア×ストローク 88×82mm 最高出力 550ps/6500rpm 最大トルク 650Nm/3000rpm トランスミッション 8段AT サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/エアスプリング サスペンション(後) マルチリンク/エアスプリング ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク タイヤ(前/後) 265/30ZR20/295/30ZR21 車両本体価格(税込み) 3120万円 (ENGINE2025年1月号)
ENGINE編集部
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