大阪・関西万博、建設作業員の悲痛な声「食堂まで徒歩30分」
2025年国際博覧会(大阪・関西万博)まで1年を切った。建設の遅れや費用膨張への批判は強く、能登半島地震を機に中止を求める声も。万博の意義や魅力発信など機運醸成が宿題となるが、残された時間は限られている。 【関連画像】リングは木造部分が8割方完成している(写真:山本尚侍) 3月中旬、大阪市の人工島「夢洲(ゆめしま)」へ向かう地下トンネルを車で抜けて進むと、巨大な木造建築物が目の前に現れた。2025年4月に開幕する大阪・関西万博のシンボル「大屋根(リング)」だ。周囲ではクレーンがそびえ立ち、工事車両がせわしなく動き回る。リングは木造部分の約8割が完成している。 そんな現場から聞こえてくるのは、作業員の悲痛な声だ。夢洲では電気や上下水道が通っておらず、発電機などを使って作業が進む。一般の建築工事では、職人が休憩時間に自分の車の中で過ごすことが多いが、万博会場建設では、必要な物資を載せた運搬車や工事車両以外は、入ることができない。現場によっては、食堂まで徒歩で約30分かかることもあるという。ある男性作業員はこう吐露する。「最初は国家プロジェクトに関われるとワクワクしていたが、もう別の案件に行きたい」。 会場内の施工管理を担う大手ゼネコン各社は、コンビニ設置や循環型のトイレ、作業員向けの駐車場設置など、労働環境の改善を進めてきた。 ●パビリオン担当者が直面する「特殊な事情」 課題は現場の労働環境だけではない。現場の建設スケジュールの遅れも大きな課題だ。中でも、海外パビリオンの建設は当初の予定から大幅に遅れている。各国が自前でつくる「タイプA(敷地渡し方式)」のパビリオンの受注が難航し、施工業者が見つからない事態が相次いだ。日本側が着工や交渉を代行する簡易型の「タイプX(建物渡し方式)」への移行を提案しているが、施工業者の決まらない国も約20カ国ある。 なぜ遅れたのか。大きな要因は、準備期間の短さだ。本来、万博は5年間隔だが、前回のドバイ万博は新型コロナウイルス禍の影響で1年開催が先送りされた。そのため各国のパビリオン担当者に与えられた大阪・関西万博の準備期間は大幅に圧縮されてしまった。 さらに各国の万博担当者は、日本の建設業界の特殊事情に直面した。鉄骨などの資材不足だ。タイプAのパビリオン建設には、鉄骨の使用を想定する国も多い。だが、日本では半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)による日本工場の建設などで鉄骨の需要が逼迫している。これにより「発注から納品までに6カ月ほどかかる」と竹中工務店の河野修・常務執行役員万博推進室長は説明する。竹中工務店はこうした事情から、鉄骨造りのパビリオン建設を請け負うには23年6月ごろまでに図面が完成し、鉄骨の発注が間に合うことを前提条件にしていた。「参加予定のほとんどの国と協議したものの、想定していたスケジュールに間に合う国がなく、受注を断念した」(河野氏)と振り返る。