〈遺産総額3億円〉80代の父の死で相続発生も、弟1人が行方不明…遺産相続手続きはどうなる?【相続専門税理士が解説】
相続が発生した場合、相続登記や銀行預金の解約などには「遺産分割協議書」が必要です。遺産分割協議書には、相続人全員の署名と実印の押印が必要であり、法定相続人が1人でも欠けると作成できません。では、もし相続人に行方不明者や音信不通の人がいたらどうしたらいいのでしょうか? FP資格も持つ公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。 年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
相続発生したが…きょうだいの1人が「行方不明」の状態に
生徒:80代の父が亡くなりました。父の遺産は不動産と現預金の合計で、およそ3億円です。相続人は、80代の母と、長男である私、そして二男の弟です。しかし、弟が行方不明で、何年も連絡が取れません。相続手続きをするにあたり、遺産分割協議は相続人全員で行わなければならないと聞いています。相続人が1人足りなかった場合、どうすればいいのでしょうか? 先生:相続手続きの際に必要となる遺産分割協議書は、法定相続人全員が署名して、実印を捺印しなければいけません。印鑑証明書の添付も必要です。だれか1人でも欠けてしまうと、遺産分割協議を行うことができません。なかにはご相談のように、音信不通や行方不明の相続人がいるケースもあり、その場合は大変です。 生徒:音信不通や行方不明の相続人がいる場合は、どうすればいいのでしょう…? (1)連絡先がわからない場合 先生:いくつかのパターンがあると思います。疎遠になってしまい、住所や連絡先が分からないだけであれば、戸籍の附票を取得して、その相続人の住所を調べるとよいでしょう。 生徒:「戸籍の附票」とはどのようなものでしょうか? 先生:戸籍の附票というのは、本籍地の市区町村において戸籍と一緒に作成されるもので、その戸籍が作られてから現在に至るまでの住所が記録されています。法定相続人であれば他の法定相続人の戸籍の附票を取得することが可能です。戸籍の附票を取って住所を見つけ、手紙を出すか、直接現地を訪問すればよいでしょう。 (2)連絡しても返事が来ない場合 生徒:連絡しても返事が来ない場合はどうすればいいですか? 先生:その場合、最初は弁護士を代理人として内容証明郵便を送り、話し合う余地があるかどうか探ってみることです。それでダメなら、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てます。調停を申し立てると、家庭裁判所から呼び出し状が送られるので、会ってもらえる可能性が高まります。 (3)連絡先に住んでいなかった場合 生徒:戸籍の附票に記載された住所に連絡しても、そこに住んでいなかった場合はどうすればよいでしょう? どこで暮らしているかもわからず、連絡手段もないようなケースもあると思います。 先生:そうですね。そのような場合、相続人が家庭裁判所に対して「不在者財産管理人」選任の申立てを行います。不在者財産管理人が選任されると、どこに行ったのかわからない相続人の代理人となり、家庭裁判所の許可のもとで遺産分割協議を行うことができます。ただし、不在者財産管理人や家庭裁判所は、必ず法定相続分以上を取得する内容でなければ合意しませんので、注意が必要です。