来年1月開幕の新リーグ「TGL」 誕生の背景を読み解く/小林至博士のゴルフ余聞
年明けに開幕することが発表された新リーグ「TGL」は、プロゴルフの大きな節目となるかもしれない。TGLはタイガー・ウッズとロリー・マキロイが中心となって設立した「TMRW Sports」によって運営され、テクノロジーを駆使したインドアゴルフのリーグという、これまでにない斬新なフォーマットを打ち出している。 【画像】「ZOZO」のレジェンドスイートで牛タン食べた TMRWの出資者には大谷翔平、ステファン・カリーらスポーツ界のスターがずらりと名を連ね、リーグの開幕が1年延期になったにもかかわらず、すでに資産価値は5億ドル(約763億8800万円)に跳ね上がっている。 TGLはニューヨーク、ロサンゼルスなどの大都市に拠点を持つ6チームが参加するチーム対抗戦。試合時間は約2時間で、スピーディーでスリリングな展開を掲げている。出場選手は豪華そのもので、例えばレッドソックスやリバプールFCの親会社であるフェンウェイ・スポーツグループが所有するボストン・コモンゴルフのチーム構成は、キロイ、アダム・スコット、キーガン・ブラッドリー、そして松山英樹である。 来年1月の開幕が楽しみだが、もうひとつ注目したいのが、この新興リーグの誕生には米国で進行する規制撤廃と技術革新、独占が崩れての競争環境が大きく寄与していることだ。 規制撤廃とは、スポーツベッティングのことである。2018年の米連邦最高裁の判決で、判断が各州に委ねられるようになって以降、スポーツベッティングは全米38州に広がり、賭け金は年間20兆円に達している。TGLでは、プレーヤーがシミュレーターに向かって放ったショットの結果をリアルタイムで観客に伝える。ファンにインタラクティブな体験を提供するこの試合形式は、ベッティング市場が合法化されたことで実現した。 その背景には技術革新もある。配信技術の劇的な進化で、顧客にとって魅力的なオッズがリアルタイムで次々と提供されるようになり、テレビに匹敵する映像をインターネット回線でも楽しめる環境が整備された。 Netflix(ネットフリックス)やAmazon(アマゾン)のようなOTT(オーバー・ザ・トップ)プラットフォームは一昨年ごろから、スポーツコンテンツを買いあさっている。アマゾンがNFLのサーズデーナイトフットボールの独占放送権を1試合100億円で購入したのはその一例と言える。ライブで筋書きのないドラマが展開されるスポーツコンテンツへの需要は、これまでになく高まっている。 もう一つの要因である、独占が崩れての競争環境とは、LIVゴルフの出現である。LIVゴルフはサウジアラビアの公共投資ファンド(PIF)の100兆円を超える桁違いの資金力を背景に、ジョン・ラームやフィル・ミケルソンといった大物選手を引き抜いた。その結果、ファンのPGAツアーへの興味が減退し、例えば今年の日曜(最終日)の視聴者数は前年から19%減少し、ゴルフファンの興味が分散している現状が浮き彫りになった。米PGAツアーのスター選手によって構成されているTGLは、この競争環境の中で生まれたリーグである。 規制撤廃、技術革新、そして競争環境という3つの大きな要素が交わって生み出されたTGLは、今後のゴルフ界はもちろん、プロスポーツ興行のあり方に革新をもたらす可能性をも秘めていると感じる次第だ。(小林至・桜美林大学教授)