『院内警察』は刑事もの×医療もののハイブリッドな設定 桐谷健太の人たらしぶりが光る
刑事だが勤務先は病院ーー創作上の設定かと思いきや、実際に一部の大学病院や国立病院に常駐する民間組織“院内交番”が舞台の『院内警察』(フジテレビ系)。第1話から “刑事もの×医療もの”のハイブリッド感が新鮮だった。 【写真】チュッパチャプスを舐める武良井(桐谷健太) 主人公は病院内で起こる患者同士のトラブル対処やクレーム対応、落とし物管理、人探しなどを担う院内刑事・武良井治(桐谷健太)。気怠そうで愛想が良いタイプではとてもないが、やけに人との距離感を詰めるのも上手い。社交辞令なんて絶対に言わないし、よく人のことを見ていて抜群の洞察力を兼ね備えており、なんだか信頼できるのはわかる。ポケットに片手を突っ込みチュッパチャプスを舐めながらパトロールし、高齢患者の入れ歯の取り違いもすぐに解決。病院の庭で遊ぶ子どもたちから高齢患者コミュニティにまですっかり溶け込む人たらしぶりが光る。 それもそのはずどうやらこの武良井は元警視庁捜査一課の刑事だったようで、訳あって自ら志願して院内刑事になったようだ。500人以上の入院患者のデータも全てインプットされているらしい。 武良井は大胆で掴みどころがない。これまで妻・恵美(金沢沙耶)のことを顧みず全くその異変に気づかなかった自分を責める夫・山際修平(渡辺光)が刃物を持ち医師と揉めている現場に駆けつけると、咄嗟に自らが白衣を羽織って医師を装い、恵美の病名を当てた。さらに山際に対して「罪の意識から病気は自分のせいなんじゃないかって思うようになった。そういう時男は余裕がなくなる」とまるで彼の気持ちを代弁するかのような言葉をかけた武良井は、やけに実感がこもっておりさも自分自身にも同じような経験があるかのように話していた。回想シーンによるとどうやら武良井には刑事時代に忙しさにかまけて大切な人の異変に間に合わなかった“手遅れ”になった経験があるようだ。彼にはやり直すチャンスは与えられなかった。それがきっと彼の恋人で故人の夏目美咲(入山法子)なのだろう。 さらに後でなぜ恵美の病名がわかったのかと交番事務員・川本響子(長濱ねる)から聞かれると「勘」だと即答していたが、もしかすると美咲を同じく膵臓がんで亡くしたのかもしれない。同じ質問を若き天才外科医・榊原俊介(瀬戸康史)からされた際には、検査の種類や流れからプロファイリングした結果だと明かしていたが、それにしてもやけに膵臓がんについての知識が豊富だった。 また、オペが迫った美紀(宮崎莉里沙)の大切なぬいぐるみを隠してまで手術を延期させ、自ら執刀するのを避けようとする主治医の伊藤(西村元貴)に迫る武良井の様子も気になる。手術が怖くなってしまい「外科医なのにメスを握れないなんて情けない」と嘆く伊藤に、「メスを握れるから外科医でしょ。外科医だからってメスを握っちゃ殺しちゃうよ」と語気を強める。さらに「ほっといても同じじゃない?死なせちゃえばいい」とあえて突き放すかのような発言をする。この武良井の揺さぶりが結果伊藤に医師としてのプライドや初心を思い起こさせ彼を手術に向かわせたわけだが、どうやら武良井は病院側の、医師側のミスで美咲を亡くしてしまったのだろう。 そしてどうやらその事件に天才外科医の呼び声高い榊原が関わっているようだ。第1話目から彼が抱える闇の片鱗が暴かれたが、榊原はオペがしたくてたまらないようで、本来は手術を急ぐ必要のある恵美に不要な検査を受けさせオペ時期を後ろ倒しにして自分が全てのオペを担当できるようにしていたようだ。それを知ってしまってから榊原からの山際への土下座を思い返すとなんだか身の毛のよだつ思いがする。「私が手術して必ずあなたの奥さんを救います」という言葉は「どうしても私に奥さんの手術をさせて下さい。そのために奥さんの身体を貸して下さい、献体して下さい」と懇願しているかのように聞こえてしまう。武良井の記憶の中の美咲が力なくベッドの中で自分の手術の番が回ってこずに待たされている映像が思い返される。さらには厄介なことに榊原に難易度の高いオペを便宜しているのは外科部長の倉田雄二(神尾佑)からの指示もあるようだが、倉田は榊原のこの異常性や“毒”に気付いているのだろうか。 最後に武良井がよく舐めているチュッパチャプスは、美咲のいない空っぽのベッドを前に喪失感に苛まれている武良井に医師・尼子唯織(さとうほなみ)がふと差し出したものだったようだ。当時の武良井にとってその飴の甘さはどう記憶されたのだろうか。これからさらに武良井と榊原の過去がどう交錯していたのか、彼らの中にある因縁が明かされるのに注目したい。
佳香(かこ)