なぜ私たちは「人助け」に魅力を感じるのか…何百万人もの集団形成を可能にする”人間の特性”とは
人種差別、経済格差、ジェンダーの不平等、不適切な発言への社会的制裁…。 世界ではいま、モラルに関する論争が過熱している。「遠い国のかわいそうな人たち」には限りなく優しいのに、ちょっと目立つ身近な他者は徹底的に叩き、モラルに反する著名人を厳しく罰する私たち。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性が絶句 この分断が進む世界で、私たちはどのように「正しさ」と向き合うべきか? オランダ・ユトレヒト大学准教授であるハンノ・ザウアーが、歴史、進化生物学、統計学などのエビデンスを交えながら「善と悪」の本質をあぶりだす話題作『MORAL 善悪と道徳の人類史』(長谷川圭訳)が、日本でも刊行される。同書より、内容を一部抜粋・再編集してお届けする。 『MORAL 善悪と道徳の人類史』 連載第19回 『「協調関係は“ガラス”のようなものだ」…集団行動をする上で全員が知るべき人間の「行動原理」』より続く
「泥棒にもルールがある」
あなたも口を固く閉ざして、共犯者を裏切ることを拒否するのではないだろうか?それを栄誉の問題と捉えているのでは?泥棒にもルールがある、とキケロは言ったそうだ。 学生たちも、非協調的な行動がもたらす利点を教えられることがない限り、ほとんどの場合で非協調的な行動論理を受け入れることを拒否する。 自分もそうだと思った人は、モラルの羅針盤がまだ正常に働いていると言える。協調本能は生得的であるという仮説を裏付けてもいる。 公共のための行動に直感的に魅力を感じ、それどころかフリーライダーに対して憤りや怒りを覚える事実が、何百万年という長い期間にわたる学習と進化が私たち人間に社会性を授け、協調性を本質的に必要なものと理解させたことを証明している。私たち人間は、協力する方法を学ぶ必要がない。
道徳心の発芽
ただし、人間には協調性が生まれつき備わっているという主張は、数学のように確実に証明することができないため、今後も議論の対象になるだろう。 しかしながら、ある行動パターンが生得的、より正確に言えば、進化によって引き起こされたものか否かを確かめる手段は存在する。 ある能力が(a)非常に早い段階で発達し、(b)どの文化にも等しく現れ、(c)変えるのが困難もしくは不可能な場合は、生まれつき備わっている特性とみなすに値する。 人間のモラルがまさしくそうだ。非常に早い段階で道徳心の発芽が見られることは、すでに確かに証明されている。「見つめる時間の研究」を通じて、生後12ヵ月未満の乳児が協力的な態度を示す人物像や形を眺める時間は、他人をじゃましたり害したりする人物像を見つめる時間よりも長いことがわかった。 不公平な行いにも、小児は拒絶的な反応を見せる。悪者を罰することは自発的な反応であって、学習の必要はない。 『チンパンジーにもモラルがある!?…なぜ人類は進化に不利な「協調性」を身につけることができたのか』へ続く
ハンノ・ザウアー、長谷川 圭