五輪特有の招集難航も「選手の成長が第一」貫いた大岩監督、帰国会見で振り返った2年半「日本がW杯優勝を目指していく上で…」
パリオリンピックを終えたU-23日本代表が4日、フランスから帰国した。MF久保建英やGK鈴木彩艶ら世代トップの欧州組が所属クラブの意向で招集できず、同じく招集交渉が難航したオーバーエイジ枠を使わずに臨んだ今大会。ベスト8という結果に終わり、目標のメダルには手が届かなかった一方、世界大会初経験の選手たちが世界と張り合う姿は日本サッカーの成長を感じさせるものとなった。 【写真】「いとこがSixTONESジェシー」驚きの告白をしたパリ五輪サッカー日本代表FW コロナ禍の制限が次第に緩和されつつあった2021年12月、大岩剛監督のU-21日本代表監督就任とともに発足したパリ五輪代表。22年3月に行われた初回のトレーニングキャンプから約2年半、選手の招集にはクラブ合意が必要というA代表とは異なる制限の下、合計88人の選手が招集され、ラージグループで強化が進められてきた。 結果的には主将のMF藤田譲瑠チマを筆頭にGK小久保玲央ブライアン、MF山本理仁、FW細谷真大ら初期からの常連組がパリ五輪のメンバーの大半を占める形となったが、常連組の中にも所属クラブで出場機会を得られず、代表から遠ざかった選手もいれば、今季に入ってトップフォームを取り戻したMF荒木遼太郎のように返り咲いた選手もいた。またMF平河悠やDF関根大輝のように大卒プロ入りから成り上がった選手も貴重な戦力となり、最後まで予断を許さない選考レースが繰り広げられてきた。 もっとも自国開催で招集交渉が前向きに進んだ東京五輪とは異なり、今大会は欧州組の招集に難航。2008年の北京五輪以来3大会ぶりにオーバーエイジ枠の活用が実現しなかったことに加え、初期からの中心メンバーだった鈴木彩やMF鈴木唯人、U-20W杯後から代表に定着したMF松木玖生らが移籍の兼ね合いもあって招集に至らず、大岩監督がしばしば強調してきた“現状のベストメンバー”という形で五輪に臨む形となった。 その結果の五輪ベスト8。帰国後、報道陣の取材に応じた大岩監督は五輪のメンバー編成について「僕の個人的な見解ですが、我々のオリンピック世代はおそらく、今後ますます色んな意味で難しくなる」と現状と向き合いながら、「その中で必ず選手ファーストでなければいけないし、選手の成長が第一でなければいけない」と今回の選考の背景にもあった大綱の方針に触れ、「目指すべきところを明確にするためには我々の経験を少しでも活かしてほしいと思う」と次世代への継承を望んだ。 選手の招集が難航したのも、欧州に戦いの舞台を移し、夏のシーズンオフから選手キャリアをかけた挑戦を行う選手が増えたからこそ。指揮官は「今回の五輪という大会だったがゆえの注目度、選手のこのタイミングでの決断は尊重しないといけない。それが一番だった」と選考を振り返り、難航した選手招集も「(それまでも)毎回同じメンバーを選べるわけじゃないので、アクシデントとは感じていなかった」と明かした。 実際にそうして選んだ選手たちの奮闘により、一体感を持って戦うチームができあがった。指揮官はスペイン戦後、フラッシュインタビューで2年半の活動について問われた際、涙を浮かべる場面もあった。それはただの悔し涙ではなく、選考レースの中で成長を見せてきた選手たちの成長を間近で感じてきたからこその感慨も入り混じっていたようだ。 「個人的にあった感情は置いておいて、選手たちはこの2年半ですごく成長したと思う。彼らが20歳、21歳くらいから23歳になって、レベルも上がったし、環境も変わった。そういう成長がアジア杯の優勝につながったと思うし、五輪でも『我々がやってきたことを出そう』という基準まで来ていたと思う。力がないからと腰の引けた戦いをするのではなく、攻撃的な守備と攻撃をするんだというのをぶつけられるところまで達したと思った。それが試合でできたことで結果として現れた」 そうしたアグレッシブな姿勢は、大岩監督が就任当初から「ものすごくフォーカスしてきた部分」。すでにA代表では「W杯優勝」を目標に掲げ、直近の2026年の北中米W杯を目指して活動しているが、その基準を日本サッカー界全体のカテゴリに共有すべく、“仕上げの世代別代表”にあたる五輪世代の戦い方にも落とし込まれていた。 「今後、日本がW杯優勝を目指していく上で、どういう立ち位置にいないといけないのか。世界のサッカーシーンの中で、U23アジア杯の時にも言ったけど、アジアの中での日本サッカーの立ち位置がリスペクトを受けていること、また世界の中でも南米とやり、アフリカとやり、ヨーロッパとやりというのが当たり前の世界に入ってきている。以前、相手にどう対応していくかという聞かれたこともありましたが、対応じゃないですよね。我々が相手に対応してサッカーをやるレベルではなくなっている。むしろ相手に恐れられるような、警戒されるような立ち位置に向かっていかないといけない」(大岩監督) ここで言う「相手に対応しない」というのは、相手を見ずに試合を進めるというわけではなく、相手の出方は踏まえたゲームプランを準備しながらも、自分たちのコンセプトに持ち込むという考え方。今大会準々決勝のスペイン戦では相手のボール保持にハイプレスで対応するだけでなく、CBを中心とした自分たちのボール保持で主導権を握り返す時間帯も作るなど、その取り組みは強国相手にも一定の成果を挙げた。 「スペイン相手だからというわけじゃなく、我々の戦術的な部分で言えば、相手の噛み合わせによってどういうことが起きて、どういうことを自分たちで支配できるかというのをずっとやってきた。今回はスペインがああいった形でやってきたから強みが活きたが、(相手が)また違う形であればオプションも持っていた。そこで選手がスムーズに可変するところも持っていた。どういう大会であれ、相手がどこであろうと、自信を持って、相手に対策するのではなく、我々がサッカーをやるというマインドになることがまずは必要なんじゃないかと考えて2年半やってきた」(大岩監督) そうした姿勢を五輪の舞台でも貫いたことにより、出場した選手たちはおのおのが、世界における自身の立ち位置を実感することになった。すでにA代表の経験を持つFW細谷真大(柏)はVAR論争を呼んだスペイン戦のオフサイドの場面よりも、終盤の決定機逸に目を向け、「少し浮かせていたら入ったゴールだった。改善が必要」とGKとのギリギリのせめぎ合いに自身の改善点を見出していた。 また大会を通じて世界水準のプレーを見せていたDF関根大輝(柏)はスペイン戦を「自分の中ではこのレベルでもやれるという手応えを掴めたゲームになった」と振り返りながらも、「だからこそ勝ちたかったし、それは自分の力が足りないということ」ときっぱり。相手の右SBマルク・プビルからは「自分よりもデカい選手でもっと上手い選手がいるというのは五輪に出ていなかったら経験できていなかった」と大きな刺激も受け、さらなるレベルアップを誓っていた。 何より選手らが口を揃えたのは「ずっと目指してきた大会だったし、本当に優勝したいというのが一番あった。悔しさしかない」(DF大畑歩夢)という国際舞台で敗れた悔しさ。ベスト8という結果に満足している選手は一人もおらず、ここからのキャリアでリベンジを果たすという気概にあふれていた。 取材対応後、大岩監督は選手たちに「ここからはA代表だ」という声を掛けながら帰路に着く選手たちを見送った。「彼らの欲なのか、向上心なのか、目指すべき基準が上がったのかは分からないが、ここがターニングポイントになったことを期待したい」(大岩監督)。現在のA代表はタレント豊富な東京五輪世代を筆頭に欧州ビッグクラブの選手が並ぶ場所。そこに数多くの選手が食い込むことが、パリ五輪世代の使命となる。