Brexitの次に注目すべきは米利上げ 判断材料の雇用統計をどう見る?
雇用統計は振れの大きい指標
一方で雇用統計は振れの大きい指標であり、5月の弱さは一時的なものであるとの声もあります。イエレン議長も「1カ月分のデータを過度に重視すべきでない」と発言するなど、労働市場が引き続き強さを維持しているとの見方を示しながら、今後の利上げに含みを持たせていました。もしこの見方が正しければ、6月以降の雇用統計が再び強さを取り戻すと、利上げ観測が徐々に復活する可能性があります。ここで雇用を取り巻く状況について確認しておきましょう。 足元の米経済は、消費・住宅統計を中心に好調な材料がみられる一方、企業収益の推移をみると、2014年後半から減速基調となり、直近では前年比で減益となるなど非常に弱い状況に陥っています。そこで懸念されるのが雇用への影響です。企業が収益の落ち込みをカバーすべくコスト削減を行い、その結果として雇用者の増加ペースが鈍化したのであれば、弱さは一時的なものではない可能性が高まるからです。実際、企業収益と雇用者数の関係をみると、過去のパターンでは企業収益の落ち込みから数四半期経過後に雇用が減速しており、今回もこのパターンに沿った動きをとなる可能性が高くなっているようにみえます。
NFIB中小企業楽観指数
労働市場の改善が曲がり角に差しかかっている可能性を示唆する別の指標もあります。NFIB中小企業楽観指数という指標では、企業に人件費計画をヒアリングしていますが、それは2016年入り後に下向きのカーブを描いています(ほかにも企業を対象にしたアンケート調査で同様の動きがみられています)。 企業が低い労働生産性(高い労働コスト)を嫌気し、労働投入量を絞ろうとした結果と解釈することができます。企業収益が減益となるなか、人件費の増加に寛容でなくなりつつあるのかもしれません。 これらを踏まえると、5月雇用統計は単に一時的な振れによって生じたものではなく、企業収益の圧迫に起因する基調的なものであった可能性が否定できません。6月雇用統計が再び弱い結果となれば、頼みの綱であった米経済の減速も意識されるでしょう。 Brexitを受けて一時100を割れたUSD/JPYはひとまず落ち着きを取り戻しましたが、6月雇用統計が弱い結果になると、FRBの利上げ計画の下方修正を通じて再び円高に見舞われる可能性があります。ここ数日の金融市場は、Brexit問題で一色になっていますが、そろそろ7月8日に発表される米雇用統計の準備を始める必要があるでしょう。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。