高杉真宙”惟規”ロスが止まらない…これほどの”愛されキャラ”になったワケ。大河ドラマ『光る君へ』第39話考察
まひろを見守り続けた弟・惟規(高杉真宙)
そうしたまひろの心配事や悩みを察し、寄り添ってくれたのが弟の惟規(高杉真宙)だ。賢子の裳着の儀を無事に終えた夜、惟規は「姉上の裳着の時は、姉上と父上の仲は最悪だったなあ」と振り返る。 当時、母ちはや(国仲涼子)の死の真相を隠蔽した為時に対して不信感を抱いていたまひろ。けれど、大人になるにつれ、父も1人の人間であることを知って、その苦悩を理解できるように。為時もまた娘の意志を尊重するようになり、まひろの宮仕えが決まった時は「おまえが女子であってよかった」と最大級の愛を伝えた。 そんな2人の歩みを客観的に見守ってきた惟規は「親子って変わらないようで変わるんだな」と、娘との関係に悩むまひろをそれとなく励ます言葉をかける。さらには「そういえば左大臣様の姉上への気持ちも変わらないな~」と、まるでまひろの不安を察したかのように話した。 そして、「きっと、みんなうまくいくよ。よくわからないけど、そんな気がする」と述べた惟規。まひろは「調子のいいことばかり言って」と呆れていたが、誰よりも観察眼に優れた惟規が言うと不思議な安心感があった。 その後、惟規は越後守に任じられた為時を国府まで送ることに。だが、その道中、突如病に倒れてしまう。そのまま越後国府まで運ばれるも、着いた頃にはもう虫の息。 自身の死を察したのか、筆をとる惟規だったが、そこには「都にも 恋しき人の 多かれば なほこのたびは いかむとぞ思ふ(都には恋しい人がたくさんいるので、この旅からは生きて帰りたい)」と自分を奮い立たせる言葉が綴られていた。
ムードメーカーだった惟規の死
しかし、願いも虚しく最後の「ふ」を書く前に力尽きる。惟規の死はその辞世の歌とともに実家へも届けられ、悲しみが広がった。幼い頃から漢詩に全く興味を示さず、勉学全般が苦手だった惟規。 けれど、辞世の歌を見てもわかるように歌人としての才能があり、死の直前には内裏でも従五位下にまで上り詰めた。その際にはいつか来る時に備えて用意していた赤い束帯をプレゼントしたいと(信川清順)。惟規の乳母であり、ちはやが亡くなってからは本当の母であるかのように、惟規の行く末を案じながらもその力を誰よりも信じていた。そんないとが惟規の死を知り、慟哭する姿が苦しい。 惟規がいなくなって、まひろの家からすっかり光が消えたような気がする。それくらい惟規の存在は大きく、彼もまたみんなにとっての“光る君”だった。こんなにも多くの人に愛されたのは高杉の好演あってこそ。どんなにシリアスな展開であってもムードメーカーであり続けた高杉演じる惟規の退場にロスが広がっている。 けれど、惟規の光はまだ残っている。愛する弟の死に打ちひしがれる母まひろの肩にそっと手を伸ばす賢子。2人を心配する惟規の魂がまだ現世に留まっていて、その手を導いたのかもしれない。そしてまひろは賢子の胸で声を押し殺しながら涙を流す。「ほら、うまくいくって言ったでしょ」と笑う惟規が見えた気がした。 【著者プロフィール:苫とり子】 1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
苫とり子