邦画史上もっとも“意味深”なラストは? 余韻がスゴい結末(1)兄は殺人者なのか…観客を煙に巻くエンディング
あなたは映画に何を求めているだろうか? 突き詰めると心の変化を欲しているのではないだろうか。とりわけ、感情の整理がつかない、何とも曖昧な結末を迎える映画には、観る者の人生を変える力がある。そこで今回は、絶望と希望が合わさった不思議な結末の日本映画を、5本セレクトして紹介する。第1回。(文・シモ)
西川美和『ゆれる』(2006)
監督:西川美和 脚本:西川美和 出演:オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、新井浩文、真木よう子 【作品内容】 東京で写真家として暮らす猛(オダギリジョー)は、気ままな暮らしを続けている青年だ。猛は母親の一周忌をきっかけに数年ぶりに帰郷し、家業を継ぐ兄の稔(香川照之)と再会する。 ある日、猛と稔は、幼なじみの智恵子(真木よう子)を誘って、近くの渓谷に行くのだが…。 【注目ポイント】 本作品は、『すばらしき世界』(2020)『ディア・ドクター』(2009)で知られる西川美和監督の2作目である。田舎でガソリンスタンドの手伝いをする優しい兄・稔とカメラマンとして都会的な暮らしをする弟の猛が対比的に描かれる。 正反対の性格の兄弟はいがみ合う様子もなさそうで、それぞれ平凡な暮らしを続けていくかに思えたが、兄弟と智恵子と3人で渓谷の吊り橋を渡ったことがきっかけで、両者の人生はガタガタと崩れ落ちていく。 智恵子を橋から突き落とした疑いで、兄の稔が刑務所に入れられてしまうのだ。事件をきっかけに兄弟の関係は、次第にぎこちなくなり、猛は兄のことを憎み、突き放そうとするも、ある日、たまたま見つけた過去の8ミリフィルムの映像が猛の心を激しく揺さぶる。 そこに映るのは、幼い頃の兄弟が事件の舞台となった橋を仲睦まじく渡る映像だ。猛は兄が無実なのではないかという思いにとらわれていた。兄は橋から落ちそうになった智恵子を救おうとしただけではなかったのかと。しかし、裁判ではそのように主張することはなかった。 8ミリ映像をきっかけに心優しい兄の本来の姿を思い出した猛は自分を責める。「橋を踏み外したのは、兄を救わなかった自分だったのだ」と。 物語のラスト。8年ぶりに兄の稔が出所することを知った猛は、彼を迎えに行く。稔を見つけて、猛は涙を浮かべて叫ぶ。「兄ちゃん、うちに帰ろうよ」。 声に気づいて、何とも言えない表情を浮かべる稔のクロースアップで映画は幕を下ろす。 それは再会を喜ぶ笑顔なのか? それとも…。観客に判断を委ねるラストは必見だ。 (文・シモ)
シモ