特別視という蔑視。ドラマ『虎に翼』から見る男らしさ──連載:松岡宗嗣の時事コラム
どんな行動が求められるか
「虎に翼」をみていると、男性の側、マジョリティの側にどのような行動が求められるのかをさまざまな角度から考えさせられる。 例えば、寅子をはじめとした女性たちの挑戦を応援する男性の姿はたくさんみられるが、例えば女子部の法廷劇に対してヤジを飛ばす男子学生を制止する男性はいない。声が届きやすい立場こそ差別に声をあげることは重要なはずだ。 寅子の父、直言(岡部たかし)は汚職事件に巻き込まれ、濡れ衣を着せられる。嘘の自白をしてしまう直言だが、懸命に無実であることを証明しようとする寅子の姿に感化され、直言も無罪を主張し勝ち取る。 男性社会の権力構造、男らしさのヒエラルキーは根強い。おかしいとわかっているはずなのに、いつの間にか「そんなものだ」と権力に絡め取られて不正義がまかり通ってしまうことはよくある。男性中心社会に風穴をあける寅子の「はて?」という疑問が、おかしいことはおかしいと言うことの重要性を突きつける。 今回は言及できなかったが、寅子と結婚する書生の優三(仲野太賀)は、これまで多くの物語で夫を支える妻たちが負ってきたケアを体現しているかのように寅子に献身する。 赤紙が届いたあと、寅子は優三の優しさにつけ込み優三のために何もできていなかったと謝る。優三は「トラちゃんができることは、トラちゃんの好きに生きることです」と諭す。弁護士をしても、別の仕事をしても、良いお母さんでも、頑張っても頑張らなくても「心から人生をやりきってくれること。それが僕の望みです」と話す優三の姿に心動かされる。 戦争へと向かっていく日本、戦地へと駆り出される男性たち。これから人を殺し、殺されていく。戦争は家父長制やジェンダー規範を強化し「女性や子どもを守る」という大義によって暴力が正当化されていく側面もある。 『虎に翼』では、女性たちの生きづらさを詳細に描いているが、戦争で国家によって命が使い捨てにされていく男性たちへの理不尽さは表裏一体だ。 今後、物語は戦後へと続いていく。寅子をはじめとした女性たちがどのように社会を生き抜いていくか。それと同時に、周囲の男性たちがどのように描かれていくかも注視していきたい。
松岡宗嗣(まつおか そうし) ライター、一般社団法人fair代表理事 1994年、愛知県生まれ。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する「一般社団法人fair」代表理事。ゲイであることをオープンにしながらライターとして活動。教育機関や企業、自治体等で多様な性のあり方に関する研修・講演なども行っている。単著『あいつゲイだって アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)など。 編集・神谷 晃(GQ)