楽天グルメ大賞を3年連続受賞!福井県敦賀市の水産加工会社・伝食が届ける「生ズワイガニ」の魅力と開発秘話
魚やエビの刺身はよく見かけるが、蟹の刺身を食べたことがある人は多くないのではないだろうか。一般的によく売られている蟹はボイルされたものが多く、生で食べられるものはスーパーには並んでいないのが現状だ。 【写真】伝食の「カット生ずわい蟹」は刺身で食べられる新鮮さが最大の売り そんな蟹の常識を打ち砕き、生で食べられるずわい蟹を販売しているのが、越前ガニで有名な福井県敦賀市の企業、株式会社伝食(以下、伝食)だ。「本場の蟹料理をもっと身近に」を合言葉に、蟹をはじめとした魚介類の水産加工や通信販売を行っている。 蟹といえば、茹でたり焼いたりしたものを食べるのが一般的だが、なぜ伝食は生食にこだわり続けているのだろうか。今回は、代表取締役の田辺晃司さんに、生ずわい蟹商品化のきっかけや生食ができる蟹の魅力や開発の背景、そして水産事業の展望について話を聞いた。 ■蟹が生で食べられる!「カット生ずわい蟹」とはどんな商品? ――初めに、貴社の事業概要と販売されている「カット生ずわい蟹」について教えてください。 【田辺晃司】弊社は2011年に創業した水産加工の会社で、「越前かに職人 甲羅組」ブランドを主力とした店舗販売事業やインターネットでの通信販売事業、飲食事業を展開しています。そして、船内で急速凍結した高鮮度の生ずわい蟹を使用し、工場内では温度管理を徹底して加工工程における鮮度落ちを極限まで防ぐことで、生のまま食べられるずわい蟹をお客様に届けています。 【田辺晃司】この商品を発売したきっかけとしては、福井県の漁港では「越前蟹」という雄のずわい蟹が獲れるのですが、蟹の殻を剥いて捌かなければならず、食べるのが面倒くさいことがネックでした。そこで「殻を剥いた足だけの商品があれば楽だし、売れるのでは?」という発想で、商品開発を開始しました。 ――つまり、買ったらそのまま食べられるずわい蟹ということですね。 【田辺晃司】そうですね。蟹の部位を足や肩、爪といった部位ごとに分けてあるので、包丁やハサミを使わずともそのままお刺身で食べたり、鍋やしゃぶしゃぶにしたり、ということができます。いわば、専門店で提供されるような蟹のフルコースをご家庭で誰でも手軽に味わえるのがコンセプトになりますね。 【田辺晃司】そして、弊社商品の特徴として生で食べられる鮮度を保っていることが挙げられます。これまでのずわい蟹の商品といえば、ボイルがされていることが一般的でした。と言うのも、生の蟹はそのままにしておくと黒く変色する「黒変」という現象が起こります。それを嫌って水揚げしてすぐに釜茹でして、ボイルしてから冷凍するのが主流でした。 【田辺晃司】ですが、私たちの地元の北陸では、生の蟹を鍋に入れたりしゃぶしゃぶにしたりするのが普通です。ですので、関東ではボイルした蟹を鍋に入れると聞いてびっくりしました。蟹は火入れをしすぎると身が硬くなって縮んでしまい、うまみが流れ出てしまいます。蟹本来のおいしさを味わうためには、自然解凍をして、生のまま調理する必要があるんですよね。 ――ボイルされたものをさらに茹でると味が落ちてしまうのですね。 【田辺晃司】そうなんです。だからこそ、日本全国のみなさまに本当においしい蟹を届けたかったのです。蟹を食べる機会って、普通であれば1年に1回か2回くらいだと思います。ですので、蟹の食べ方を忘れてしまう人も多く、それであれば誰でも簡単に調理できる形の商品を作りたいと思い、カット生ずわい蟹の商品開発を行いました。 ■生食に辿り着くまでに…経路開拓までの苦労の日々 ――なぜ、蟹が生で食べられる印象がこれまでなかったのでしょうか? 【田辺晃司】エビが生食できることを知っている人は多いですが、蟹も生で食べられることはあまり知られていません。その理由は、生の蟹が市場にほとんど流通していなかったからです。やはり鮮度を保ったまま生の蟹を流通させることを誰もしてこなかったということもありますし、水揚げされてからの販売経路を誰も保証できないという問題がありました。 【田辺晃司】というのも、現在日本で食されている冷凍の蟹の大半は、ロシアやアラスカ、カナダなどの外国産なんですよね。「カット生ずわい蟹」で使用しているのも外国産になります。越前ガニや松葉ガニなどのブランドの蟹は日本近海で水揚げされているので経路がはっきりしているのですが、外国産のものはそうもいきませんでした。ですが、私は「海老は生食できるのになんで蟹は生で食べられないんだ」と不満を抱いていて、どうしても蟹の生食ができるようにしたかったんです。 ――生ずわい蟹の流通経路の確保のために、どのようなことをされたのでしょうか? 【田辺晃司】海外で蟹を水揚げしているところに直接買い付けに行って、それを自分たちの手で加工して提供するところまで手掛けたら、必ず成功すると思いました。実際にこれらを実行に移し、販売の際に「生食用の蟹」であることを大々的に謳って販売しました。その結果、年間50万箱を販売する大ヒット商品にまで成長しました。 ――すごいですね。ヒット商品になるまでにどのような苦労がありましたか? 【田辺晃司】海外で買い付けするとなると、とりあえずテストのために100キロ単位で買うというのはまず相手にされず、「20フィートコンテナ何本買ってくれるの?」という規模の取引が必要になりました。コンテナひとつで大体18トンくらいなので、この量を仕入れるとなると何千万と費用がかかるんですよね。 【田辺晃司】弊社の創業が2011年なのですが、当初は仕入れに費用がかかりすぎたこと、そして最初はお客さんも少なかったこともあって思うようには販売できませんでした。創業から2~3年くらいは少しずつリピーターさんを増やしつつ、仕入れ先とのパイプも強化していました。実際に生ずわい蟹を売り出すことができたのは、2015年~2016年ごろからです。 【田辺晃司】また、生食用の蟹の認知度も低かったことも要因で、蟹のお刺身は水揚げされる漁港や蟹の専門店くらいでしか食べられないので、市場の開拓にも苦労しました。「生で食べてみたい」というお客様の潜在需要はありましたが、そこにリーチさせるのが大変でした。 ■食中毒の心配なし!「生」で食べられるメリットとは ――現在ではたくさんの消費者に生ずわい蟹が届いていますが、生で食べたユーザーの反応はいかがでしたか? 【田辺晃司】正直に申し上げると、意見は半々に分かれます。生の蟹って、甘海老とよく似ていてねっとりという感じの食感なので、好き嫌いが分かれるものではありました。ですが、「こんなに甘くておいしいんだ!」という方も半数ほどいらっしゃいます。 【田辺晃司】ただ、生で食べられることのメリットはその味ではなく、食中毒にならないことが一番大きいです。生でも食べられるということはしゃぶしゃぶをしたときに加熱が不十分でも問題ないということなんです。いわゆるレアですね。ですので、食中毒を気にして必要以上に加熱して、身が硬くなっておいしくなくなることもありません。 【田辺晃司】鍋で十数分煮なくても、湯に数回通すだけでしゃぶしゃぶとして十分食べられるので、うまみを逃すことなく蟹のおいしさを楽しむことができるんです。生で食べられるという安心感があるからこそ、実現できる食べ方なのです。 ――生で食べられるということは熱しても問題なく食べられるということですね。 【田辺晃司】そうですね。それがカット生ずわい蟹の一番の売りです。 ――人気の秘訣を感じました。楽天グルメ大賞の蟹部門にて、3年連続で大賞を受賞をされたり、テレビやWebメディアなどに露出されるようになってきましたが、それらの影響などはいかがでしたか? 【田辺晃司】おかげさまで順調に販売数は伸び、リピーターさんも増えている状況です。ほかにも、2017年ごろに始まったふるさと納税にて、福井県敦賀市の返礼品に弊社のカット生ずわい蟹が登録されました。それを皮切りにぐんと需要が伸びていきました。 【田辺晃司】これまでは海外をはじめとした福井県以外の地域で蟹の加工を行っていましたが、今後は敦賀市の地域活性化にも力を入れていきたいと思っています。最近では北陸新幹線が敦賀まで延伸したこともあり、敦賀をどのように盛り上げるかを考えなければなりません。それも含めて、まずはやはり蟹の加工技術をさらに高めていかないといけませんし、メディア発信も必要になります。商品をイチから作って今以上に販売していくために、設備投資からPRまで、さまざまなことに力を注いでいます。 ――カット生ずわい蟹のヒットが敦賀市に変化を与えそうですね。 【田辺晃司】福井県は蟹の産地である反面、加工場がなかったんです。そのため、獲れたらそのまま市場に持っていく以外の方法がありませんでした。ですが、現在は冷凍技術のレベルが格段に上がっていますし、蟹に付加価値をつけて加工品にすることができるようになりました。これまでは加工場がなかったがために働く人も定着せず、特産品としてのブランディングもできずじまいでしたが、それが今ようやく可能となりました。 【田辺晃司】正直、ここまでするのはすごく大変ですし、数十年間、誰もしなかったのが実情です。ですが、結局のところ誰かが動き出さないと何も始まりません。だからこそ、私たちが先陣を切って動くことで、リスクをとってアクセル全開で事業を行っています。今後は弊社の「越前かに職人 甲羅組」のブランドを日本全国だけでなく、海外展開も視野に入れています。 ■「夢は、カット生ずわい蟹を世界に届けること」 ――今後の貴社の展望について教えてください。 【田辺晃司】そうですね、ブランドを立ち上げたときに「事業をやるからには蟹で1位になろう」ということを決めていました。今でこそ蟹は中国やヨーロッパ、アメリカでも食べられるようになってきましたが、10~15年ほど前まではシーフードの価値は、ほとんど評価されていなかったんですよね。ましてや生食は危険という印象を持たれていました。 【田辺晃司】そう考えると、蟹や魚などの魚介類の価値を高めているのは、日本の調理技術や品質管理です。だからこそ、まだまだ日本が世界をリードできる余地はあると思いますし、甲羅組を世界でも通用する蟹のトップブランドにしたいというのが、私の夢です。 ――ありがとうございます。最後に、消費者のみなさまにメッセージをお願いします。 【田辺晃司】蟹って殻があって食べにくいし、高価で手が出にくいという印象を持たれている方も多いと思います。ですが、実際にはそんなことはありませんし、私たちは蟹を日常的に気軽に食べられるような形のものにしたいと思っています。さまざまな蟹の食べ方を提案して、皆様の食生活が豊かになるお手伝いをできればと思っていますので、今後ともよろしくお願いします。たくさんの方に蟹をたくさん食べてほしいですね! 取材・文=越前与