藤井聡太を泣かせた記憶は「全然、覚えていないんです」…伊藤匠21歳が挑む“八冠崩し”の大一番「奇をてらわず、正攻法で向かっていきたい」
藤井を泣かせた?「全然、覚えていないんです」
伊藤が一般のメディアに紹介される際、頻繁に用いられるフレーズが「藤井を泣かせた男」だ。2012年1月の将棋大会で、当時小学3年生だった2人が対戦。負けた藤井少年は大泣きし、その映像が繰り返しテレビで放映されたため有名な逸話になった。 この一件について伊藤本人に聞くと、答えはそっけなかった。 「全然、覚えていないんです。まあ、どうでもいいといいますか……」 苦笑交じりではあったが、実体のない「ライバル物語」を一蹴したその言葉からは、本気で「打倒藤井」を目指す棋士の凄みが感じられた。 初のタイトル戦登場となった昨年の竜王戦では4連敗し、ストレート負け。プロ公式戦では、今期の叡王戦まで藤井に11連敗(1持将棋)と勝てずにいたが、今シリーズでは絶対王者を相手に互角の戦いを繰り広げている。「最新定跡の精通度では藤井聡太、永瀬拓矢、伊藤匠がトップ3」(ベテラン観戦記者)という構図のなか、伊藤が藤井に肉薄するシーンは当分の間、続くことになるだろう。 まだ21歳の伊藤だが、「棋士としてのピーク」についての考え方を聞いたときには「20代だと思います」と即答した。 「過去の例を見ても、一時代を築いた大棋士の先生はみな、20歳前後で台頭し、すぐに最盛期を迎えています。年を取るにつれ、だんだん勉強する時間が取りにくくなっていくのは確かだと思いますので、いまのうちに勉強をして実力をつけておかなければならないという気持ちは非常に強いですね」 新陳代謝のテンポが加速する現代の将棋界では、トップ棋士が5年後もその座にとどまることができるかどうかは誰にも分からない。将棋界の頂点を目指す位置につけながら、「いまの努力が今後の棋士人生を決める」と危機感を抱く伊藤のストイックな思想は、将棋に全集中することが求められる現代棋士の姿を象徴しているのかもしれない。 師匠の宮田八段も語る。 「藤井八冠もそうですが、伊藤はいまご両親のもとで暮らしており、これが将棋漬けの生活を送るのに良い影響を与えているように思いますよ。私は常々『25歳までは酒、バクチは絶対禁止』と弟子に通達しているのですが、これは本人というよりもむしろ、周囲に対して『酒を飲ませないでくださいよ』という意味なんです」 叡王戦の決定局は、将棋界の未来をも占う重要な一局だけに、互いに自信を持つ戦型になることがほぼ確実だ。 最新定跡の研究量では群を抜くと言われる藤井と伊藤の対局は、高速ペースで駒組みが進み、未知の領域に入ったところから長考の応酬となることが多い。両者とも生粋の居飛車党であり、その棋譜には「現代将棋の最先端」が反映されている。
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