ちょっとダメな先輩のセリフが共感の嵐!講談社の「ヤングマガジン」が新社会人応援広告を展開したワケとは?
4月といえば新生活が始まる時期。特に、今年度から働き始める新社会人にとっては、社会人としての第一歩を踏み出す瞬間だ。そんな彼らを応援すべく、講談社が発行する漫画雑誌「週刊ヤングマガジン」(以下、ヤングマガジン)は、2024年4月1日に新社会人応援広告を展開した。 【画像】もし「賭博黙示録カイジ」カイジが先輩だったら これは「今年から社会⼈のヤングたちへ」と題し、歴代23作品の⼈気キャラクターが新社会⼈に向けてアドバイスを送る応援広告。朝日新聞朝刊とJR品川駅自由通路のビジョンに掲出された。「もしヤングマガジンのキャラが先輩だったら」を表現したキャラクターたちのセリフが「おもしろい」「攻めている」と、SNSを中心に話題となった。 この新社会人応援広告を、ヤングマガジンはどのような経緯で始めるに至ったのだろうか。今回は講談社 ヤングマガジン編集部 副編集長の横山俊介さんに、広告を企画したきっかけやその後の反響などについてインタビューを行った。 ■ヤンマガが新社会人を応援するワケとは? ――はじめに、ヤングマガジンが4月1日から展開した新社会人応援広告とは、どのような経緯で企画されたのでしょうか? 【横山俊介】博報堂さんに今回の企画を担当していただいたのですが、もともと「ザ・ファブル」や「疾風の伝説 特攻の拓」、「パリピ孔明」などといったヤングマガジンの作品単体の広告展開にご協力いただいていました。ですが、2024年は作品単体だけではなく、ヤングマガジンそのもののブランディング広告もしようという話がありました。 【横山俊介】その際に、「たとえばですが、4月1日ごろのタイミングに何かしたいですね」ということになりました。4月といえば、さまざまな会社で新社会人の方が入社をされる時期ですので、それに向けた企画を何かしてみようかということになりました。これがそもそものきっかけでしたね。 ――4月の企画ということで、新社会人に向けた広告を展開されたのですね。 【横山俊介】そうですね。これは個人的な気持ちでもあるのですが、ヤングマガジンがブランディングの広告をする際に、若者向けにしっかりと宣伝をしていきたかったというか、雑誌名の通り“ヤング”に向けたものにしたいなと思っていました。 【横山俊介】雑誌は新しい読者や作家が入り続けていかないと循環されません。特に週刊誌は生き物みたいな存在なので、常にライブ感を感じてほしいというか、粗くてもいいので勢いを出していきたいんです。そのためには、若い読者や作家の存在が不可欠であり、新社会人はまさにターゲットそのものだったことも、今回の広告を行った大きな理由のひとつです。 ――ヤングマガジンの読者層は20代くらいの方たちなのでしょうか? 【横山俊介】個人的には高校生以上の年代を想定しています。雑誌全体でも高校が舞台の漫画は人気がありますからね。イメージとしては、中学生がちょっと背伸びして読み始めて、そこから高校生や大学生、社会人になってずっと読んでくれたらうれしいという感じですね。ボリューム層でいえば20~30代になります。 【横山俊介】弊社雑誌の「週刊少年マガジン」を卒業して、ヤングマガジンを読み始めたり、またはどっちも読んでくれたりしている方も多いですね。グラビアがあるので親御さんの目の届く場所では読みにくいという声も時々いただくのですが、高校生くらいになると学校に持っていって「この子かわいいよね」という話題で盛り上がるということもあるのかなと思います。 ■「今、連載している作品を知ってほしかった」 ――今回の新社会人応援広告を展開される上で、どのような点に注力をされましたか? 【横山俊介】作品の選定に関していえば、現在ヤングマガジンに連載されている作品を出してほしいということを博報堂さんに強くお願いしました。ヤングマガジンって45年近い歴史があるので、「AKIRA」や「攻殻機動隊」といったレジェンドクラスの作品がたくさんあります。また、近年では「監獄学園」や「新宿スワン」などの人気作品も輩出しています。 【横山俊介】過去の企画ではこのような有名な作品を選びがちでしたが、今年からは勇気を出して、知名度的にはこれからという作品を全面に押し出して、若い方々に伝えるということをしました。もちろんレジェンドの作品にも登場してもらっているのですが、基本的には現在の連載作品をメインにしています。 ――今回の企画では、「AKIRA」の金田に「俺達ァ健康第一 寝ようぜ」と言わせるなど、ちょっとダメな先輩のようなセリフが多かったように感じます。このようなコンセプトにはどのような意図があったのでしょうか? 【横山俊介】今回の企画を進めるにあたって、最初はもう少しちゃんとしたアドバイスをキャラクターたちに言わせる方向だったのですが、それだとほかの媒体も同じようなことをしたときに目立たなくなるのでは?という危惧がありました。あと、やっぱりヤングマガジンという雑誌のスタイルとして、品行方正ではないキャラクターが多いんですよね。すぐにケンカしたりエッチなことをしたりしますからね(笑)。 【横山俊介】ですが、そのような主人公たちが人気を博してヒーローとして存在するので、その特色をいかすことにしました。新入社員の方たちにちょっとダメな先輩の姿を見せて「こんな感じでいいんだ」と思ってもらい、気楽に仕事をしてもらうことを伝えるほうがヤングマガジンらしいよね、ということで、このような形になりました。 【横山俊介】高校や大学を出てから定年まで40年近く社会人をすることになると思うのですが、その間1日も気を抜かずに頑張ることは難しいですよね。仕事をこなすうえで起こるさまざまなことから学び、折り合いをつけて前に進んでいくのが人間本来のしたたかさであり、ヤングマガジンの本質みたいな部分と重なっていると感じたので、検討に検討を重ねて最終的にこのような形になりました。 ■“知らない”から“知っている”へ…広告掲載の狙いとは ――X(旧Twitter)や品川駅での掲載など、さまざまな場面で広告を拝見しました。実際にユーザーからの反応や感想などはいかがだったでしょうか? 【横山俊介】そうですね、「おもしろい!」とかなり好意的に受け止めてくれた方が多かったように感じます。想定していた層にきちんとリーチした実感がありましたし、品行方正すぎないというか、清濁併せ呑むといった要素を楽しんでくれている方が多かった印象がありましたね。SNSでも話題となり、とてもうれしかったです。 ――新社会人応援広告を掲載されてから、本誌の売り上げに影響はありましたか? 【横山俊介】雑誌の売り上げ自体に対する影響は多分なく、ほぼ変わらなかったですね。ただこれは全然負け惜しみではなく、基本的に街頭広告や交通広告は売り上げには直接関係しないという認識です。ですが、長期的にはすごく意味があると思っていて。やはり人間は知らない作品を読み始めるのにすごくエネルギーがいるのですが、少しでも知っているとそのハードルが大きく下がるのです。 【横山俊介】だからこそ、雑誌や作品を知ってもらう機会を増やして、読者が本屋を訪れた際に「これ知ってる!」と作品を手に取ってもらうことが一番の狙いですね。今回の広告は、その確率を上げるための企画でもあります。そういう意味では、広告を打ったことは必ず効果があると思っています。 【横山俊介】今回の広告を見てすぐに作品を買おうとはならずとも、書店をはじめ、友達や恋人の家の本棚などでたまたま見つけて、広告で見たから読んでみたらおもしろいから続きを買っちゃった、というような流れができれば最高です。 ――作品を知っている人を増やすことが今回の大きな目的だったのですね。 【横山俊介】そうですね。また、ほかにも作り手側の都合もありました。たとえば10~20代の新人の作家さんがどの雑誌に投稿しようかなとなったときに、ヤングマガジンを選んでいただく可能性を少しでも上げたいという狙いもありました。ご本人が知っている雑誌のほうが絶対に応募しやすいですからね。 ■いつまでも“ヤング”な人たちのそばに!今後の展望とは? ――今後、ヤングマガジン全体としていきたいことはありますか? 【横山俊介】これからも書店さんと連携して作品を売ることに力を入れていきたいと思っています。紙の本は電子と異なり、一度売れないとずっと市場が収縮していきます。アニメ化や有名人・インフルエンサーの紹介などで一気に需要が伸びることがあるのですが、書店さんの本棚が有限である以上、その際に在庫がないと売れないんですよね。 【横山俊介】そのようなチャンスを逃さないためにも、ヤングマガジンの売場の維持はし続けていきたいです。電子の方は調子がいいのですが、こちらにのみ注力していると書店さんも「ヤングマガジンの棚はいらないな」という考えに至ってしまいます。だからこそ、電子書籍一辺倒になるのではなく、書店さんと協力して棚の確保に努めています。 【横山俊介】今回のような広告を打ち続けることでヤングマガジンのイメージが広まれば、宣伝のPOPを作ったりする時に書店員さんがやりやすくなるかもしれない。そうなれば結果的に魅力的な売場が出来上がると思うので、そうなったらうれしいなと思います。 ――ありがとうございます。新社会人応援広告を経て、今後はどのような企画を展開する予定でしょうか? 【横山俊介】今回の企画は横に広がるものだと思ったんですね。ものすごく瞬発力があって、おもしろいもので、みんなが拡散をしてくれるような話題性を狙ったものでした。ですが、この企画を人々が3日間くらいしか覚えていないのであれば、ブランディング広告としては成功とは言い切れないのかもしれません。理想を言えば、今回の広告を見た人が10~20年後にも「ヤングマガジンってやっぱりこうだよね」と思っていることが、本当のゴールだと思います。 【横山俊介】本企画では原作からセリフを改変しています。クリエイティブによって作られた今回の広告のためだけに生まれたものなので、たとえば、今回のセリフがある人の人生を作ったとしたら、きっと5年後にはヤングマガジン自体には紐づいていない可能性があるのでは?と考えてしまいました。だからこそ、次は逆の方向性に挑戦したいと思っています。 【横山俊介】次回は話題性を狙わない広告という、現在ではあり得ないものに挑戦してみたいです。今回は話題性に振り切ったものだったから、次は話題性ではない何か別のものを狙って両極端にチャレンジし、最終的に私たちがとるべきところはこれらの間のどこであるかを測っていきたいと思います。今年中にできたらうれしいですね。 ――次回の企画、とても楽しみにしています。最後に、今後のヤングマガジンの野望について教えてください。 【横山俊介】ヤングマガジンが若い人たちの相棒みたいなものになってほしいというか、常に傍らにあって一緒に成長したりしなかったりと、読者に寄り添っていられるような雑誌にできたらいいなと思っています。このような雑誌になることができれば、この上ない喜びですよね。 【横山俊介】また、私が担当している若い新人作家さんと話していると、みなさんすごくエネルギーに溢れていて圧倒される事もあります。そんな作家さん達をサポートし、活気のある紙面を作り続けていくためにも、我々編集者も挑戦する気持ちや姿勢は忘れないようにしたいですね。雑誌名だけに、私たちもいつまでも”ヤング”でありたいです! 取材・文=越前与