「裏切り者には死を」。これは本当に現代の話か? 不審死続出、プーチンが築いた「粛清帝国ロシア」の闇
反体制派の出馬を強権で封じ込め、事実上結果が決まっている3月17日のロシア大統領選挙を経て、プーチンの独裁体制は続く。そのプーチン政権下で長年繰り返されてきたのが、反体制派や亡命ロシア人らをターゲットにした「粛清」、つまり暗殺だ。本当にこれは現代の話なのだろうか? 【写真】謎の死を遂げた反プーチン派や亡命ロシア人 * * * ■元部下や元身内の裏切りには容赦なし 気温マイナス30℃にもなる北極圏の刑務所内で2月16日、ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイが死亡した。ロシア当局は「自然死」と発表し、死後8日たってようやく母親に遺体を引き渡したが、事実上の拷問死、虐待死だった可能性も指摘されている。 2020年8月にもナワリヌイは露国内のホテルで神経剤「ノビチョク」を衣服内に仕込まれ、その後搭乗した旅客機内で意識不明の重体に陥った。 旧ソ連で開発されたノビチョクはVXガスの5~10倍の毒性を持つが、このときは搬送先のドイツで集中治療を受け、約1ヵ月後に自力呼吸ができるまでに回復した。この事件には諜報機関FSB(ロシア連邦保安局)の工作員8人が関わったとみられている。 ナワリヌイの死は日本でも大きく報じられたが、ほかにも昨今、反プーチン派や亡命ロシア人が謎の死を遂げるケースは枚挙にいとまがない。 諜報機関KGB(ソ連国家保安委員会)、FSB出身のウラジーミル・プーチンは、1999年8月に首相に就任。その直後に起きたモスクワ高層アパート連続爆破事件(約300人死亡)をチェチェン共和国独立派のテロと断定して同国に侵攻、制圧し、翌2000年に大統領に当選した。 この一連の動きを「プーチンとFSBによる自作自演である」と告発したのが、FSB元職員でイギリスに亡命したアレクサンドル・リトビネンコだ。諜報活動に詳しい軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が言う。 「リトビネンコは06年11月、英国内で放射性物質『ポロニウム210』をお茶に混ぜられ、懸命な治療にもかかわらず、苦しんだ末に急性放射線症候群で亡くなりました。 実行犯2人はKGB、FSO(ロシア連邦警護庁)の元職員で、犯行当時は表向き民間ビジネスを装っていましたが、実体はなく、FSBの下請けを隠匿するためのダミーだったとみられています。『自分に歯向かう者は排除する』という姿勢がプーチンの権力基盤の根幹です」 長年プーチンの〝汚れ仕事〟を担ってきた民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジンが、露軍と対立し武装蜂起を試みた2ヵ月後の昨年8月、自家用ジェット機の墜落で死亡したのも記憶に新しい。 「おそらくFSBが搭乗機に細工したのでしょう。ほかの方法でも殺害は可能だったでしょうが、事故に見せかけて確実にやれると判断したものと思われます」(黒井氏) ロシアでは死刑の執行は凍結されているが、〝帝国〟の独裁者プーチンの恣意的な選別により、裏切り者や反対勢力の有力者は容赦なく「粛清」されるのだ。