若月佑美 乃木坂46で育まれた女優への道すじ
演じることは、楽しいだけじゃない
そんな多彩な若月だが、やはり今後活躍の基軸としていくのは女優業。演じることは、他のジャンルでのクリエイトとはまた異なる意味を感じているようだ。 「演じることは、自分の中で、楽しいだけじゃないものだなと思っていて。楽しい6割、苦しい4割でやっていて、結果的に楽しいが上回るのですが、一つの役を演じることの大変さを毎回感じています。その役の人物が生きた人生ってきっと見えていない、いろいろな出来事を経ていると思うので、脚本にはないその人の人生を想像して、その人のくせを自分で決めるとか、そういうところも難しいですね。求められているものに自分が答えられていないと感じると、焦ったり、考えこんじゃって苦しいときもありますが、だからこそ、お客様に舞台を観て勇気をもらったとか言われると、嬉しいが勝って、いろんな役をやりたくなります」
悩んだ時期に救われた演出家のアドバイス
ただ、役者のタイプとしては、役が降りてきて役にどっぷりと浸かるタイプではなさそうだ、と話す。 「そのことで悩んだ時期もありましたが、2.5次元の舞台をやったとき演出家さんから『あなた自身が消えたら、あなたがやってる意味がない』って言っていただいたんです。私はそのとき、役になりきれずに落ち込んでいたんです。原作はもっと声が高くて、天真爛漫で、きゃぴきゃぴしていて、とか。自分がいくらお芝居しても声が追いつかなかったり。そんなとき、『近づける努力は必要だけど、最終的に残ったものがあるとしたら、それは若月がやってる理由になるから。もし原作に忠実な人がとにかくいいんだということなら、本職のアニメ声優さんを呼んでくればいい。あなたがその役をもらっているということに対する理由として、そこに自分を乗っけて、その役を生きろ』と。私はカメレオン女優にはなれないかもしれませんが、だからこそ逆に、自分を生かして役と共に生きていける女優さんになれたらいいなと思っています」
臨みたい新境地はジェンダーレス?
いま、中性的な役に興味があるという。 「アイドル出身だと、女の子っぽい、女性っぽい役がきやすいと思うのですが、乃木坂46で一番最後にやった舞台『鉄コン筋クリート』では少年の役をやったんです。鉄パイプ振り回して。世の中には可愛くて透明感があってキラキラしている女優さんがたくさんいるので、自分のどの部分にオリジナリティがあるのかと考えると、たぶん、“かっこいい”とか、そういった少し違った部分な気がしています。それも黒木メイサさんや篠原涼子さん、米倉涼子さんなど、クールビューティーの方向ではなくて、中性的な役柄。いまは男性が女装したり、ジェンダーレスな作品も増えていると思うのですが、いつか私もそういうところで新境地に臨めたら、と思っています。あとは、いま西野七瀬が出演しているドラマ『あなたの番です』とか、ああいう方向性の、面白く、ミステリアスなものも楽しいなと思いますし、やったことがないこともジャンル問わず頑張りたいなと思っています。なんでもやれるように準備しておきたいです」
演じることの重みや難しさ、深さ、苦しさも感じつつ、楽しく芝居に取り組もうと努力する若月。乃木坂46から旅立った一つの光が、女優という世界で輝き始めている。 (取材・文・撮影:志和浩司)