求愛行動中に琥珀に閉じ込められたシロアリのカップルを発見、3800万年前の「衝撃的化石」
現代のシロアリにベトベトの罠を歩かせて状況を再現
琥珀化石ができるのは、まず樹木についた傷から樹脂が流れ出すところから始まる。その木にいる昆虫などの動物の体に樹脂が貼り付いたところへ、さらに多くの樹脂が幹を伝って流れてくると、逃れられなくなった動物は、そのまま死んで閉じ込められることになる。 樹脂が完全に固まって琥珀になるには、そこから約4万年もの時がかかる。琥珀は、その温かみのある色と美しさから、世界中で珍重されている有機宝石だ。 研究の共著者で、チェコ科学アカデミー昆虫共生研究室を率いるアレシュ・ブチェック氏は、このロシア、カリーニングラード産の琥珀化石をコレクターのウェブサイトで見つけた際、化石を通じて動物行動の手がかりを探る研究を行った実績のある水元氏に連絡をとった。彼らは、この珍しい化石をすぐに買い入れた。 まずは4人の専門家チームが、2匹のシロアリの種と性別を特定するためにマイクロCTスキャンを行い、メスがオスの腹部に触れていることを発見した。 次に、この先史時代の出来事を研究室内で再現するために、科学者らは、台湾および中国南部原産のイエシロアリ(Coptotermes formosanus)のつがいに、樹脂を模した粘着物の表面を歩かせた。 多くのつがいは、そのベトベトとした罠を逃れた。一方、罠に捕らえられてしまったつがいでは、タンデム歩行の前方にいる個体が歩くスピードを落とし、粘着物から逃れようともがいた。もう片方(後方)の個体は、トラブルの気配を感じても逃げようとはしなかった。おそらく求愛行動中のシロアリは、巣作りをして子どもを育てられる可能性のためにその場に留まろうとするからかもしれないと、シューベンク氏は言う。 後方のシロアリは多くの場合、最初は前方の個体の周囲を歩きまわり、最終的には、あの化石化したつがいと同じく2匹が横に並んだ状態になり、そのまま動けなくなった。
「ユニコーン」のように希少
これらの発見が示唆しているのは、あの絶滅種のシロアリも3800万年前、同じような行動をとったということだ。 「私はこの発見自体にも、彼らが行った分析にも感銘を受けています。分析によって、これははるか昔に起こったシロアリの行動をそのまま切り取ったスナップショットだという主張に説得力をもたせたのです」とシューベンク氏は言う。 「化石はありふれています。一方、数千万年という時を超えて保存された行動は、いわば『ユニコーン』のような、極めて珍しいものです」と氏は付け加える。 水元氏にとって、この研究はまた、異なる分野の研究者同士の交流が、いかに大きな可能性を秘めているかを実感する機会ともなった。 「化石を扱う研究者と、生きている動物や昆虫を扱う研究者の間には、大きな隔たりがあります」と語る氏は、両分野間の交流が増えることで、動物の行動に関する謎がより多く解明されることを望んでいる。
文=LIZ LANGLEY/訳=北村京子