ウソが本当になる時代!フェイクニュースを見抜くには
巷(ちまた)では玉石混交の情報が乱れ飛んでいる。そうした偽情報や誤情報、デマ、不正確な情報に対して、「正確」「不正確」「誤報」「虚偽」などと真偽を検証する「ファクトチェック」活動が日本でも活発になっている。 しかし、あるニュースや記事、ネット情報に対して、簡単に「正確」とか「間違い」と判断するのは、実は意外に難しい。ニュースで流れた政治家の発言が事実かどうかを確認するという程度のことなら、それほど難しくはないだろう。現にそういう情報に対するファクトチェック活動は日本でも始まっている。 ところが、「農薬のせいで子どもの発達障害が増えた」とか「非糖質系甘味料の摂取はがんを増やす」、また「妊婦が新型コロナワクチンを接種すると流産する」「ゲノム編集食品を食べるとがんになる」「有機食品は美容によい」といった「科学とリスク」に関わる話となると、専門的で学際的な科学知識が必要となるだけに、そう簡単に「誤報だ」などと断定することは難しい。最近は、科学を装った誤情報が多く出回っているだけに、真偽の判定は余計に困難を極めている。つまり、従来のファクトチェックでは手に負えない巧妙な偽情報や誤情報が増えているのがいまの時代である。 さらに、同じニュースや記事でも、別の角度から見ると「これって、相当に偏っている」と思われる情報も増えてきている。例えば、福島第一原発の事故でたまり続けるタンクの処理水放出をめぐる問題でも、同じテーマを扱っていながら、新聞社やテレビでその報道の中身がかなり異なり、何が真実か分かりにくい例も増えている。この問題は、新聞やテレビなど媒体ごとに報道スタンスがはっきりと分かれる「メディアの分断」とも関係するため、新聞を読み比べても真相はなかなかつかめない。
AI時代で変わる偽情報の姿
フェイクニュースをテーマにした数々の本でいつも書かれているように、インターネットの世界では恐怖や不安に訴える偽ニュースや都市伝説的な話ほど「速く」「広く」拡散する。それがここ20年間の特徴だった。 ところが、今や次の革新的技術である人工知能(AI)の爆発的な普及が進行している。これまでも本物と見分けがつかない偽動画や偽画像を作ることはできたが、それは専門家が専門技術と多額の費用をかけて作っていた。 例えばスティーヴン・スピルバーグ監督の映画「E.T.」は1000万ドル、15億円(1ドル150円換算)の製作費をかけたと言われるが、現在はAIソフトを使ってE.T.もどきの画像はもとより動画までも案時間で安価に作ることができる。ということはSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)による文字情報の時代からAIによる画像情報の時代に入ったということだ。 そしてその効果は驚くべきものだ。例えば、プラスチック製のストローは環境に悪いからやめようなどとSNSにいくら書き込んでも結果は出なかった。ところが世界中のプラスチック製ストローを激減させたのが、鼻孔にストローが刺さった1匹のウミガメの写真だった。 文字情報以上に画像情報は感性に強く訴えかける。だから、正しい方向に使えば大きな効果がある。しかし、同時にフェイクニュースの手段としても文字情報とは比べ物にならないくらい強力だ。 こうして「ディープフェイク」と呼ばれる識別が極めて困難なフェイクニュース画像が氾濫する時代がやってきた。偽画像と分かって面白がるだけなら大きな問題にはならないだろう。しかし偽画像を本物と勘違いして不安や怒りが生まれ、社会、経済、政治にまで大きな混乱をもたらす可能性は大きく、国際的にその対策の検討が始まっている。このような新しい事態に対処しなければならない。