クルド人ヘイトを煽る人々の正体は? その背景を雨宮処凛が解説
ロスジェネ世代を代表する作家・活動家の雨宮処凛。デビュー以来、貧困や格差問題を追い続け、07年に出版した『生きさせろ!難民化する若者たち』はJCJ賞を受賞、また、今年2月に刊行した、社会保障を使いこなすコツや各種困りごとの相談先など、誰もが必要な情報を各々の専門家に取材してまとめた『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』が現在6刷のベストセラーとなるなど、精力的に執筆・活動を続けている。そんな雨宮氏の新刊は、今後、避けては通れない難民・移民問題をわかりやすく説明した『移民・難民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社 『14歳の世渡り術』シリーズ)。なぜこの本を書こうと思ったのか、そして現場はどのような状況にあるのか。話を聞いた(前後編の前編)。 【写真】『移民・難民のわたしたち これからの「共生」ガイド』雨宮処凛著 近頃、メディアで取り上げられることの多いクルド人問題。トルコの少数民族であるクルド人が埼玉県川口市や蕨市に集住し、地元住民との軋轢が表面化しているとされている。XやYoutubeなどのSNSでは、暴走をする車の様子や、解体作業現場で危険な行為をおこなっている画像をクルド人だと指して非難する投稿も目立つ。その一方では川口市長が、「仮放免」のクルド人に対して、人道的立場から行っている支援の費用を国が手当てするよう求めるなど、クルド人側に寄り添った態度を示すなど、温度差が感じられる。現地はいったいどんな状況にあるのか。実際に足を運んで取材を重ねてきた雨宮氏はこう語る。 「2013年頃に東京の新大久保で過激な嫌韓デモが頻繁に行われて、ヘイトデモだと問題となりました。その後、神奈川県の川崎市に住む在日コリアンもターゲットにされ、排斥デモや街宣が多く行われていた。ただ、川崎市に関しては2020年、全国初のヘイトスピーチに刑事罰を科す条例が施行されたこともあり、ヘイトデモは解消されつつあります。 その二つの都市でヘイトデモをしていた層とかぶる人たちが2009年、蕨市でも排斥デモを行っているんです。蕨市に住むフィリピン人一家の在留資格に関わる問題がメディアを巻き込んで話題になった際、その長女が通う中学校の前で行われた排斥デモが、蕨市内での初のヘイトデモではないでしょうか。そしていま、クルド人問題でヘイトを扇動しているのも同じ層。その前は中国人差別を扇動していたのですが、次のターゲットとなったのがクルド人というわけなんです」 クルド人問題に注目し、「悪い面」ばかりをフィーチャーしてSNSで広めることで、人々の不安を煽り、憎悪を高めていこうという運動が存在しているのだ。しかし雨宮氏は警鐘を鳴らす。 「川崎市では差別的な言動への罰則として、50万円以下の罰金を定めています。また、市長からの勧告を受けて、行政処分を受けたにもかかわらず、なお禁止規定に違反した場合、氏名が公表されて、警察や検察に刑事告発されることもありうる。それだけでなく、メールなども脅迫罪になることがあります。実際に足立区に住む男性がクルド人の支援団体に『クルド人皆殺し万歳』といったメールを送った結果、身元を特定されて脅迫容疑で書類送検されています。だから、いまネットのクルド人ヘイトを真に受けて行動すると、書類送検などをされて人生が終わる可能性もあることを覚えておいて欲しいです。というか、ヘイトデモを見て、デモ隊の人たちの言い分を真に受ける人はほぼいないと思いますが、ネットだと真に受けてしまう人がいる。その怖さに気づいて欲しいです」 本人は義憤に駆られたつもりが、世間的にはそれはヘイトといわれる行為に当たる。当の本人にとっては青天の霹靂かもしれないが、社会では「ヘイト」は許されない行為なのだ。