クルド人ヘイトを煽る人々の正体は? その背景を雨宮処凛が解説
なぜ日本に移民・難民として訪れることになったのか
「この一年ほどのクルド人ヘイトには、病院事件というきっかけがあります。2023年に、男女関係のもつれがきっかけで、約100人のクルド人が川口市立医療センターに集まったという騒ぎがありました。その様子が動画などで拡散され、以降、急速に『埼玉の一部のクルド人はやりたい放題だ』などと広まるようになりました。 SNSでそれらの投稿を目にした人たちは、裏に意識的にヘイトを煽っている存在がいるなんて思いもしない。もしもわかっていたら引っ掛からないはずなのに、そこが巧妙に隠されているから、信じ込んでしまう人もいる。SNSにはクルド人のトラックの過積載とか、危険運転している、とかの動画が出回っていますが、調べると違う都市のナンバーだったということもあれば、運転手そのものが映っていなくて、クルド人とは断言できないことも多々ある。 先日、クルド人へのヘイトスピーチ問題に関する集会に行って驚きました。今、クルド人たちはスマホを恐れているというんです。それは彼らが働いている現場やコンビニの前にいるところを勝手にスマホで撮る人がいるから。YouTuber的な人でしょうか。それで『こいつらがレイプしてる』というデマをSNSで拡散する。こうしてクルド人はみんな犯罪者というような偽情報が拡散していく。地元の人たちが耐えかねて声をあげているんではなく、ヘイトの矛先がクルド人に向かっているのが実状なんです。もちろん、地元との軋轢や犯罪もゼロではないでしょうが、この30年間、クルド人は日本社会で解体の仕事を担って暮らしてきました」 そもそも「国を持たない世界最大の民族」と呼ばれるクルド人は、なぜ日本に移民・難民として訪れることになったのか。その理由のひとつが川口・蕨にいるクルド人の多くがトルコ出身であることに関連している。本書から引用して紹介する。 1980年代なかばから90年代にかけて、トルコからの分離独立を求めるクルド人の武装組織・PKK(クルディスタン労働者党)とトルコ政府との対立が激しくなったことから、PKKとは無関係のクルド人であっても協力者として疑われたり、闘争に巻き込まれたりする危険性が高まり、国外に逃げる人が増えた。 国際連合によると、2011年からの10年間で世界各国で約5万人のクルド人が難民認定されてるという。(『難民・移民のわたしたち これからの共生ガイド』P112L10‐P113L4) 「だから『帰れ』といわれても帰る場所なんてないんです。トルコに帰ったら刑務所に入れられたり、徴兵されて同じクルド人に銃を向けることを強制されることになるかもしれない。国外逃亡して日本に来て難民申請をした、という事実がある時点で、戻ると身の危険がある人もいます。それに幼い頃に日本に連れてこられたり、日本で生まれた子どもたちは母国の言葉がしゃべれないこともあるし、すでに日本の文化に馴染んでいる。母国に帰ったところでまた別の困難が待ち受けています」