宮藤官九郎「50代も連ドラやっていたいです」
脚本家、俳優、映画監督、ミュージシャンのほか多彩&多忙な宮藤官九郎。そしてミュージシャンであり、近年は俳優、映画監督としても精力的に活動する渡辺大知。 二刀流にとどまらず各方面で輝きを放つお2人にインタビュー。人生の転機、影響を受けたものなど、それぞれの原点をお聞きしました。年の差ちょうど20歳の2人。果たして共通点はあるのでしょうか? 【動画】宮藤官九郎が“ナニ”と呼ばれる大災害から12年の街を描く
人生に影響を与えた出来事
――――宮藤さんは20歳の頃、黒澤明監督作品「どですかでん」(1970年公開)と、その原作小説に出会い、演劇を志したそうですね。 宮藤「当時、黒澤監督の映画をよく見ていて。中でも『どですかでん』が好きで、山本周五郎さんの原作小説に出会って、その高ぶりのまま演劇を始めました。今に至る、自分の転機になりました」 ――宮藤さんの「どですかでん」のような、渡辺さんにとっての思春期の転機になる出来事は何ですか? 渡辺「バンドを組んだことですね。きっかけは、憂歌団でした。テレビ番組で曲が流れているのをたまたま見て“こういうことをやりたい”って。ブルースとロックの違いも知らない、音楽をやりたいのかも分からない時に、でも“やりたい”って思ったんです」 宮藤「えっ、いくつの時?」 渡辺「バンドを組んだのは、高校生の時です。映像を見たのは、高校に入る前でした」 宮藤「憂歌団の何て曲だったの?」 渡辺「『パチンコ』という曲で」 宮藤「(笑) しかも、『パチンコ』(1976年発売)なんだ。生まれるずいぶん前の曲なのに、響いたんだね?」 渡辺「ゆる~いところから急にガツーンとくるところに衝撃を受けて」 宮藤「憂歌団か。僕らの世代だったら分かるけど、なんか面白いよね。まあ、自分も『季節のない街』(1962年刊)に影響を受けてますから、似たようなものですけど(笑)」
――2007年、高校在学中に組んだロックバンド、黒猫チェルシーが人生の転機に。 渡辺「ハイ、そうですね。入学してからメンバーと出会って、人と何かを共有する喜びを知って扉が開けました。それまでは、自分が好きなものを“掘って”も、誰かと共有するなんてできないと思っていたので……弟には音楽を聞かせたり、好きな漫画を読ませたりして無理やり『いいね』と言わせていましたけど(笑)」 宮藤「(笑)、その感じ、なんかわかる」 渡辺「好きなものを好きって言っていいんだ。好きなことを始めていいんだって思えたのがこの時期でした」 宮藤「僕が『大人計画』に入った時も同じようなことを思った」 ――宮藤さんの「どですかでん」との出会いも偶然だったんですか? 宮藤「そうですね。大学生の時に黒澤監督の作品が一度にビデオ化されたので、見てみようと思って。で、『どですかでん』だけほかの作品と違うな……自分にしっくりくる作品だなと思って。だから本当に、たまたま。タイミングですね」 渡辺「“たまたま”っていいですよね? 僕もたまたま風呂上りの深夜にテレビで流れていた憂歌団の映像を見なかったら、今の自分はないかもしれないので。テレビもラジオも、求めていないのに勝手に流れてくるけど、そこに人生を変える出会いがあるかもしれない。知らないものと偶然、出会えるっていいなと思います。レコード店なんかでもそう。実際、お店に行くからこそ、知らなかったいいものと出会えることがあるので」 宮藤「ネットだと、自分から(情報を)探しにいかなきゃ見つけられないもんね。さっきの話じゃないけど、テレビとかラジオの場合、深夜、寝る前に偶然……っていうのがまたいいんだよね。油断している時にこそ、案外、面白いものが見つかったりするから」 渡辺「この季節、進学や就職で新しい世界に飛び込む人も多いと思いますが、たまたまとか偶然の出会いを大事にしてもらいたいです」 ――最後に、今後の宮藤さんの展望を。「いだてん」しかり、これまで敗者や抗えない何かに翻弄される人々を、やさしい目線で描かれてきたと思いますが、50代はどんな作品を送り出したいですか? 宮藤「負けた人に、すごくドラマを感じるんですよ。負ける人、報われない人、去っていく人にしか興味がないんです。連ドラって、この人はその後どうなっているのかな、というところが最後まで見せられるんで、やっぱり面白い。だから、50代も連ドラやっていたいです」 ――宮藤さんが、次に渡辺さんにオファーするとしたら、どんな作品、役になりそうですか? 宮藤「イヤなヤツです(笑)。ニコニコしながら人を傷つけるような。演じる本人と反対側のキャラクターが見たいんですよね。こんなかわいらしい顔をしているのに、って。どうですか?」 渡辺「ここ最近は、サイコパス系の役が多いかもしれないです」 宮藤「じゃあ、殺人鬼とかじゃなくて、ただ嫌われていくだけ、ってどう? 殺傷能力はないんだけど、ただただ人をイヤな気持ちにさせる(笑)」 渡辺「(笑) 役の大小にかかわらず、なぜか覚えているような役はこれからもやってみたいので、次回、よろしくお願いします」 【プロフィール】 宮藤官九郎(くどう・かんくろう) 1970年7月19日生まれ。宮城県出身。1991年より「大人計画」に参加。映画『GO』(2001年公開)、『謝罪の王様』(2013年公開)、『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(監督兼任/2016年公開)、ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」(TBS系)、「ゆとりですがなにか」(日本テレビ系)、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」、大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(ともにNHK)、「不適切にもほどがある!」(TBS系)など多数の話題作の脚本を手掛ける他、監督・俳優・ミュージシャン・ラジオパーソナリティと幅広く活動。企画・監督・脚本を手掛けたドラマ「季節のない街」(テレビ東京)放送中! 渡辺大知(わたなべ・だいち) 1990年8月6日生まれ。兵庫県出身。2007年、高校在学中にロックバンド黒猫チェルシーを結成してボーカルを務め、2010年、ミニアルバム「猫Pack」でメジャーデビュー。2009年には映画『色即ぜねれいしょん』で俳優としてデビュー。2011年にはNHKの連続テレビ小説「カーネーション」で連ドラ初出演。2015年には『モーターズ』で映画監督デビューも。宮藤官九郎が・監督・脚本を手掛けたドラマ「季節のない街」(テレビ東京)に出演中! (撮影/uufoy 取材・文/橋本達典)