「病院が少ない街は、住民が長生き」って本当!?…ウッカリするとだまされる〈統計のまやかし〉【経済評論家が解説】
警察官が多い街ほど、犯罪が多発する!?
警察官が多い街は犯罪が多い、ということは大いにありそうです。ひとつには、犯罪が多い街は警察官を増やすからです。犯罪が少ない街は税金を公園等に使うでしょうから、結果として犯罪の数と警察官の数は比例しがちです。 「犯罪の数=親」で「警察官の数=子」ですね。したがって、いかなる財政再建論者も「犯罪を減らすために警察官の数を減らそう」などと言わないでいただきたいものです。 もうひとつ、大きな街は犯罪も多いが警察官数も多い、ということがいえるでしょう。「人口=親」で「犯罪数&警察官数=きょうだい」というわけですね。 状況を明確にするためには、すべての街について「人口1,000人あたりの犯罪数と警察官数」を計算し、それを比較する、といった手法を検討すべきでしょう。
株価が景気の先行指標といわれる理由
どちらが原因でどちらが結果なのかを考える手段のひとつとして、「先に発生したほうが原因かもしれない」という発想は重要です。もっとも、それで判断を誤る可能性もあるので、要注意です。 「株価は景気の先行指標」だといわれます。「株が下がると、数ヵ月後に景気が悪化する場合が多い」というのです。可能性としては、株で損をした投資家が節約するようになるので景気が悪化する、ことも考えられますが、従来の日本では個人が持っている株は少なかったので、そうしたことが頻繁に起きていたとは考えにくいでしょう。 多くの場合、人々が景気の悪化を予想すると株を売るので株価が下がり、人々の予想が当たって数ヵ月後に景気が悪化する、ということが起きているのでしょう。たとえば米国でリーマン・ショックのようなことが発生すると、日本の株価は直ちに下がりますが、実際に景気が悪化するのは数ヵ月後のことでしょうから。 「子が親より先に生まれる」ことも起こり得るわけですね。
病院が多い街は病人が多く、病院が少ない街はみんな長生き!?
「病院数が多い街ほど入院患者が多い」ということも、あるかもしれません。 ひとつには、病院数が多いと空きベッドが増えるので「医師が患者に不必要な入院を勧める」ことが考えられます。 多くの真面目な医師に失礼ではありますが、もし少数の医師がそうした行動をとれば、統計的には「病院が多いほど入院が多い」ことになるわけです。「供給が需要を作り出す」などと悪口を言う人が出てきそうですね。 もっとも、実際に多そうなのは「病気がちな人は病院の多い街に引っ越すが、健康な人は病院の少ない街に住み続ける」という因果関係でしょう。 それなら「病院の少ない街のほうが、人々は長生きする」という統計が出てくるかもしれません。そんな統計が出てきたとしても、「病院は命を縮めるから、病院を減らそう」などと考えてはいけません。陰謀論者や極端な財政再建論者がそんなことを言い出しても、決して同意しないように気をつけましょう(笑)。 今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。 筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「THE GOLD ONLINE」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。 塚崎 公義 経済評論家
塚崎 公義