領空侵犯したロシア軍機 スカスカの北方領土と募る日本への疑心暗鬼
防衛省は23日、ロシア軍のIL38哨戒機が、同日午後1時過ぎから4時前にかけ、3度にわたって北海道礼文島北方の領海上空を侵犯したと発表した。それぞれ、約30秒から1分間にわたり、領空侵犯したという。空自はF15とF35 の両戦闘機を緊急発進(スクランブル)させ、無線による警告を行った。ロシア機が従わないため、3回目の領空侵犯の際、ミサイル攻撃を避ける際に使う強い光と熱を出す「フレア」を初めて使用した。木原稔防衛相は24日の会見で、ロシア軍機の動きを「挑発的な行動と考えてもおかしくないと判断している」と語った。 ロシア軍哨戒機は何をしていたのか。領空侵犯した海域は、北海道とサハリンの間にある宗谷海峡の西側にあたる。ロシア軍哨戒機は同一海域を4往復余にわたり、南北に飛行していた。自衛隊統合幕僚監部によれば、22日から23日にかけ、中国海軍艦艇5隻とロシア海軍艦艇4隻が宗谷海峡を東進、さらにロシア海軍艦艇1隻が22日、同海峡を西進していた。陸上自衛隊東北方面総監を務めた松村五郎元陸将は「ロシア軍哨戒機の飛行経路は、典型的な捜索パターンだ」と語る。中ロ両海軍艦艇が宗谷海峡を通過する際、自衛隊側も必ず監視活動を行う。ロシア軍哨戒機は、監視活動をしていた水上艦か潜水艦を発見し、さらに詳しく電波や音紋を収集しようとしていた可能性があるという。 政治的圧力をかける目的で領空侵犯をする際、通常は戦闘機や爆撃機が使われる。ロシア軍哨戒機の行動は「真剣な情報収集活動」(松村氏)という側面もあったようだ。もちろん、だからといって、ロシア軍側に挑発的な意図がなかったとも言えない。松村氏は「領空侵犯を3回も繰り返している以上、リスクを冒してでも情報を収集しようとする強い意図が感じられる。日ロ関係が良ければ、関係を悪化させるリスクは取らないだろう。日ロ関係の緊張が影響したことは間違いない」と語る。 ロシア軍はなぜ、領空侵犯を覚悟してまで、情報収集活動を強行したのか。これまで、東大先端科学技術研究センターの小泉悠・准教授の分析などから、ロシア軍が択捉・国後両島に配備していた地対空ミサイルが搬出された事実などが明らかになっている。松村氏は「ロシア極東地域から大砲や弾薬などが引き抜かれ、ウクライナに送られているようだ。日本には想像もつかない話だが、軍事をリアルに考えるロシアは手薄になった北方領土が日本に奪い返されるということまで心配している」と語る。日ロ関係の緊張が、今回の領空侵犯を招いた一因とも言える。