伝統のバンタム級で3階級制覇へ! "ネクストモンスター"中谷潤人をプロボクサーへと導いた「無冠の帝王」の教え
井上尚弥を筆頭に、現在日本ボクシング界は7人の世界王者がひしめき、さらにこれから世界を狙う逸材も豊富にそろうなど、黄金期ともいえる時代だ。そんな中、異色のボクシング人生を歩んできたのが2月24日(東京・両国国技館)、バンタム級に転向して世界3階級制覇に挑む〝ネクストモンスター〟中谷潤人(じゅんと=26歳、M.Tボクシングジム)だ。 【写真】中谷の強烈な左ストレート 中学卒業と同時に単身渡米し、今も日本とアメリカを行き来してトレーニングを積む中谷。戦績は26戦全勝19KO。2023年5月、ラスベガスのMGMグランド・ガーデン・アリーナで行なわれたアンドリュー・モロニー戦での衝撃的なKO勝利は、アメリカで最も権威のある専門誌『ザ・リング』やスポーツ専門局ESPNの年間最優秀KO賞に選ばれるなど、本場での評価も高い。 「大きな目標としては『パウンド・フォー・パウンド』(全階級を通じた最強ランキング)で評価されるボクサーになることは常に意識しています。あとは強い相手とヒリヒリするような試合をしていきたい、という目標もあります」(中谷) まもなく通算6度目の世界戦のリングに上がる中谷に、昨年末から密着取材。見えてきたのは、過去と現在をつなぐふたりの恩師の存在。中学1年で始めたボクシングの楽しさを教えてくれた石井広三。そして、15歳で単身ロサンゼルスに渡って以来、現地で指導を仰ぐルディ・エルナンデスだ。 ■スーパーフライ級からバンタム級に上げた理由 2023年12月23日――。 世の中がクリスマスムードに溢れる週末、中谷が所属するM.Tボクシングジムを初めて訪ねた。同日は他ジムの選手を招いてスパーリングが予定されていた。 ジムは神奈川県相模原市中部にある橋本という町にある。元日本スーパーフェザー級王者の高城正宏(現トレーナー)と、元駒澤大学ボクシング部専属コーチだった村野健(現会長)が2001年に創立。中谷はプロデビュー前の16歳から所属し、トレーニングを続けてきた。アメリカではロス在住のルディ・エルナンデスの下で、日本ではルディ門下生の紹介で入門したこのM.Tジムが練習拠点となる。 「こんにちは」 夕方5時――。中谷はマネージャーでふたつ年下の弟、龍人(りゅうと)と現れた。身長は172cmと、体重リミット約53.5kgのバンタム級ではかなり上背がある。試合までまだ2ヵ月あるがかなりスリムな体型だ。ちなみに平常時の体重は62~63kgだそうだ。 スパーリングの相手は2021年の全日本新人王、日本バンタム級8位の梅津奨利(三谷大和)だった。戦績は12戦10勝1敗1分で、10勝のうち7KOという中谷に負けず劣らずのハードパンチャーである。 4ラウンドのスパーリングが始まった。 164cmの梅津は細かなステップを駆使し、低い姿勢から懐に潜り込んできた。右のリードジャブで突進を食い止める中谷。パンチをかいくぐろうとする梅津にカウンターの左ストレートをヒットさせた。 基本はリーチ差を生かして組み立てるスタイル。あらゆる角度から繰り出される右ジャブ、左フック、そして左ストレートと、しなやかで無駄のない動きのパンチを次々と披露した。驚くようなスピードはないが、的確にパンチをヒットさせる。距離が詰まれば長い腕をたたむように絞ってコンパクトにアッパーを突き上げ、梅津の顎を捉えた。 スパーリングは終始、中谷が主導権を握って終了。練習後、話を聞いた。