「折れない雑草魂」で手繰り寄せた意地の県28連覇!青森山田は八戸学院野辺地西に先制を許すも鮮やかな逆転勝利で全国連覇の挑戦権を獲得!:青森
[11.4 選手権青森県予選決勝 青森山田高 3-1 八戸学院野辺地西高 カクヒログループアスレチックスタジアム] 【写真】影山優佳さんが撮影した内田篤人氏が「神々しい」「全員惚れてまう」と絶賛の嵐 県28連覇が懸かっているとか、ディフェンディングチャンピオンとして冬の全国に帰らなくてはいけないとか、そんなことは関係ない。目の前のピッチを全力で駆け抜ける。目の前のボールを全力で追い掛ける。そして、目の前の勝利を全力で掴み取る。それがこのチームが積み上げてきた歴史の、伝統の、誇りのすべてだ。 「今年は選手権もプレミアも、あまりディフェンディングチャンピオンというのは口にしたことがないですね。それぐらい『オレらは雑草だぞ。下から這い上がっていこう』と、逆にチャンピオン感は出さずに来れていましたし、それが良い形でこういうみんなで頑張れるチームになったのかなという気がするので、純粋に今年のチームで日本一を獲ろうということをメインにやれているのかなと思います」(青森山田高・正木昌宣監督) 先制点を献上しても、焦らず、騒がず、貫禄の逆転勝ち!第103回全国高校サッカー選手権青森県予選決勝が4日、カクヒログループアスレチックスタジアムで行われ、前年度の全国王者・青森山田高と初の全国を狙う八戸学院野辺地西高が対戦。前半19分にFW成田涼雅(3年)のゴールで八戸学院野辺地西が先制したものの、FW石川大也(3年)、MF川口遼己(3年)、MF大沢悠真(3年)が相次いでゴールを挙げた青森山田が3-1で勝ち切り、28年連続30回目の全国大会出場を決めた。 8年連続で同一カードとなった青森ファイナルは、「前半から引かないで、前から行こうと話していました」と三上晃監督も語った、「8度目の正直」を期す八戸学院野辺地西が立ち上がりから攻勢に。力のあるFW堀田一希(3年)と成田の2トップが推進力を発揮すれば、ドイスボランチのMF阿部莞太(2年)とMF関下煌己(1年)もセカンドボールの回収に奔走。右のMF小笠原聖那(3年)、左のMF芋田脩南(3年)と両サイドのアタッカーも積極的に仕掛けることで、青森山田のラインを押し下げていく。 すると、19分に試合が動く。八戸学院野辺地西は関下のパスから、右サイドに開いた堀田がクロス。ファーで拾ったボールを芋田が左から上げ直すと、ゴール前に飛び込んだ成田のヘディングがゴールネットへ弾み込む。オレンジのスタンド、沸騰。八戸学院野辺地西が先制点を奪ってみせる。 ビハインドを負った青森山田だったが、「みんな冷静にやれていましたし、失点して吹っ切れたという選手もいましたね」と語ったのはキャプテンのDF小沼蒼珠(3年)。ベンチもハマらない形を見て、システムを4-2-3-1から4-4-2へシフトするなど、改めてやるべきことを共有し直していく。 38分の同点弾は頼れるストライカー。石川が基点を作った流れから川口が右へ振り分け、MF長谷川滉亮(2年)は丁寧なクロス。大沢が粘って残し、エリア内へ走り込んだ石川のシュートは、右スミのゴールネットへ吸い込まれる。「しっかり振り抜こうという気持ちで振り抜いたら、たまたま良いコースに飛んでくれました」と笑った9番の貴重な一撃。青森山田がスコアを振り出しに引き戻して、前半の40分間は終了した。 「ウチらとしては1-0と1-1の折り返しではまったく違うので、一番良くない形で失点をしてしまったなと思います」(三上監督)。ハーフタイムを挟み、次の得点を記録したのも青森山田。後半3分。大沢のパスを受けてエリア内へ切れ込んだ石川がマーカーともつれて倒れると、主審はPKというジャッジを下す。キッカーは川口。左スミに蹴り込んだボールは、八戸学院野辺地西GK喜村孝太朗(2年)もコースは読んでいたものの、わずかに及ばず。2-1。青森山田が逆転に成功する。 「まず後ろは『2失点目は絶対にやらせない』ということもディフェンスラインの4人で話していました」(小沼)。八戸学院野辺地西も18分にはDF開坂高雅(3年)の右アーリーから芋田、成田と繋いだボールを、堀田がシュートまで持ち込むも青森山田DF中島斗武(3年)が体でブロック。35分にも成田が抜群のスピードで抜け出しかけるも、青森山田のセンターバックを務めるDF福井史弥(2年)が確実なカバーリングで阻止。リードを得た絶対王者は、ディフェンス陣の集中力も研ぎ澄まされていく。 勝負を決めたのは「青森県大会の決勝は自分が小さなころから見てきた舞台でした」という地元出身のアタッカー。37分。左サイドで時間を作った途中出場のMF西尾啓汰(3年)が縦に優しく流し、裏へ走った石川が丁寧に折り返すと、中央へ入ってきた大沢が確実にゴールを陥れる。 「やはりまた27連覇するのには27年掛かるわけで、この連覇というのは先輩たちが創り上げてきてくれた偉大な記録なので、そこを途絶えさせることなく次に繋げられたということに、一番はホッとしています」(正木監督)。いきなりの失点にも動じず、着実に得点を積み重ねた青森山田が3-1で勝利。全国連覇への挑戦権を力強くもぎ取る結果となった。 「自分たちはエリートでも何でもない雑草で、1年掛けて積み上げてきたものがあるので、目の前の一戦一戦に勝ち続けることで、その結果が全国制覇に繋がればいいかなと思います」とこの日の3点目を叩き出した大沢が話したように、前年度の高校年代二冠を受けてスタートした今年の青森山田は、決してここまで順調な道のりを歩んできたわけではない。 プレミアリーグでも序盤戦には3連敗を記録。「頑張っていないわけではないけれど、やっぱりみんながハードワークできないと厳しいですね。去年もそこで勝っていたわけで、上手さや強さで勝っていたわけではないから」と正木監督も3連敗目を喫した試合後には渋い表情を浮かべるなど、チームは苦しい時間を過ごしていた。 それでもインターハイでは全国ベスト8も経験し、夏の時期の厳しいトレーニングを積み重ねたことで、選手たちは自分たちの立ち位置をもう一度見つめ直しながら、守備面の強化に注力。「山田の三本柱の『球際』『切り替え』『ハードワーク』をやるということはいつでも変わらない」(小沼)というマインドをそれまで以上に浸透させていく。 すると、後半戦に入ったリーグ戦でも優勝争いを繰り広げている横浜FCユースや鹿島アントラーズユースに完封勝ちを収めるなど、怒涛の4連勝を達成。19試合を終えた段階での18失点はリーグ最少の数字を誇っており、守備の固さをベースに少しずつ、少しずつ、小さな自信を積み重ねてきた。 この日も押し込まれる流れの中でリードを許す展開を強いられたものの、前半終了間際に石川が意地の同点ゴール。「ハーフタイムに控室に戻ってからも、選手たちは凄くポジティブな、しかも具体的な声掛けが多かったので、『あとは落ち着かせれば大丈夫だな』というのも少しありましたね」と振り返るのは正木監督。数々の苦しい経験を潜り抜けてきたチームは、いつの間にか雑草のような確かな逞しさを纏っていたのだ。 ここからは全国の数あるチームの中で彼らだけに許されている“目標”に向かって、再び日常を積み上げていく。キャプテンの小沼は力強く言い切った。「選手権で2連覇できるチームというのは山田しかいないですし、この本当にプレッシャーが掛かる中で試合ができるのは山田だけなので、そこはポジティブに捉えつつ、誇りに思って、もう1回全国の頂点を獲りたいなと思います」。 『折れない雑草魂』を心に宿した、ディフェンディングチャンピオンの新たな挑戦。自分たちの弱さと向き合い、一歩ずつ前に進み、全国連覇をようやくその視界に捉え始めた2024年の青森山田には、きっとまだまだ成長する余地が十分に残されている。 (取材・文 土屋雅史)