今夏甲子園で旋風の島根・大社 斎藤佑樹が感じた高校野球の原点
今夏の甲子園で、県立校ながら優勝候補の報徳学園(兵庫)や早稲田実(西東京)など私立校を次々と破り、ベスト8に進んだのが大社(島根)です。劇的な勝利を重ねて注目を集め、アルプス席の熱狂的な応援も話題になりました。地元の盛り上がりはどうだったのか、知りたくなりました。 【写真】甲子園で活躍した(左から)馬庭優太投手、石原勇翔主将、藤江龍之介、藤原佑の両選手 まず訪ねたのが、地元の出雲大社。校名の「大社」は、出雲大社のおひざ元である大社町(現出雲市大社町)からきています。出雲大社の表参道「神門通り」には、多くの店に大社の勝利を伝える新聞の号外が掲示されていました。 近くの飲食店「きんぐ」は、焼きそばやラーメンなどが有名。吉田一久社長(52)は「甲子園の試合の日は、みんなが家でテレビを見るから、出前がいつもの3倍の1日140食。試合を見る暇もなかった」と、笑顔で話します。 神門通りで喫茶店「大社珈琲(コーヒー)」などを営む坂根めぐみさん(46)は大社の卒業生。「甲子園期間中は、町全体が野球の話で持ちきり。朝のあいさつは『昨日、大社勝ったね』から始まった」と振り返ります。周辺には「出雲」とつく店はあるが、「大社」とつく店がないためか、ネットなどでも注文が殺到。コーヒー豆などの商品が売り切れることもあったそうです。 吉田さんは「選手の多くが知り合いの子。甲子園を見て勇気をもらった」。坂根さんは「『大社』という地名を全国に知ってもらえた」と喜びます。 甲子園から帰り、選手たちも地元の盛り上がりに驚いたそうです。藤江龍之介、藤原佑の両選手(いずれも3年)は「歩いていると『感動をありがとう』とか声をかけられる。甲子園はすごい場所だと思った」。石原勇翔主将(3年)は「食事に行ったらドリンクを無料にしてもらえて驚いた」と笑います。 馬庭優太投手(3年)は「甲子園の土を持って帰れなかったんだけど、子どもたちが『僕が代わりに持って帰ってきてあげる』と言ってくれたのが一番うれしかった」と話します。 甲子園での「旋風」を見て、学校を訪ねる観光客も出てきました。秋季県大会では石飛文太監督(43)が子どもたちにサインをせがまれることもあったそうです。 石飛監督は「島根の小さな街の子どもたちの戦いぶりが、見ている人の心を打ったのは、本当にうれしい」と話します。「地元のスポーツ少年団の子どもたちが、目を輝かせながら選手の周りに集まっていた」と、将来への「手応え」も感じました。 「おらが街の学校」を街ぐるみで応援し、チームの活躍に街の人たちが感動をもらう。「高校野球の原点」に触れた気がして、うれしくなりました。
朝日新聞社