【ライブ・レポート】八代亜紀 雨の慕情、舟唄もブルースで斬新アレンジ
八代亜紀が初のブルースアルバム『哀歌-aiutaー』のライブツアー(大阪・東京)を行った。東京公演が行われた品川プリンス、ステラボールには長年のファンの中に30代くらいの若い人の姿が混じり、会場は立ち見が出るほど大盛況だった。 圧倒的な歌唱力とリズム感はさることながら、各曲のイントロが流れ出すたびに八代は変化する。歌詞に込められた感情や情景にどっぷりと浸り、魂の歌が紡ぎ出されていく瞬間が見られるのはライブならではの醍醐味だ。小さな表情や手の振り一つも見逃せない。
圧倒的な歌唱力とリズム感、そして”誰が聴いても八代亜紀”
イントロダクションから「St.Louis Blues」のサックスのイントロで紫色のドレスをまとった八代が登場。拍手と歓声に迎えられ、クールでスモーキーなブルースのステージが展開された。 八代とともにステージで演奏するのは伊東ミキオ(Key、MIKIO TRIO)、藤井一彦(Gt、THE GROOVERS)、中條卓(Ba、シアターブルック)、サンコンJr.(Dr、ウルフルズ)、梅津和時(Sax)という豪華な顔ぶれ。 「フランチェスカの鐘」「別れのブルース」などの日本のブルース歌謡のカバーでは、オリジナルをリスペクトしつつも八代ブルースを展開。横山剣(CRAZY KEN BAND)が八代のために提供した「ネオンテトラ」では、昭和の香り漂う暗く哀しい歌だ。愛する男性に先立たれた女性が夜の街で懸命に生きる姿を情感を込め歌い上げた。 「関東って水不足なの? あれ歌っちゃう?」 そこで飛び出したのは、ヒット曲「雨の慕情」のブルースアレンジというサプライズ。サビの「雨、雨ふれふれ~♪」ではファンたちもおなじみの手の振りを楽しんだ。
後半は白いドレスを着て登場した八代。歌同様に冴えわたるのは、八代の人生そのままを凝縮したトークだ。父を助けたい一心で近くのキャバレーで歌っていたのがバレたのをきっかけに上京したこと、シャイな性格を克服するために挑戦したバスガイドの失敗談など、苦い思い出も茶目っ気たっぷりに語り、笑い話に変えてしまう。 八代のために中村中(あたる)が書き下ろした「命のブルース」については、打ち合わせの際、とことん哀しい歌をと、リクエスト。また、35年間に渡り慰問を行っている女子刑務所の受刑者にも心を重ね、「罪を犯すも犯さないも背中合わせ」としんみりと語った。ブルースは哀しい歌だからこそ、生きる希望になればと願っている。 一方、「Give You What You Want」を提供したブルースバンド・THE BAWDIESとの会話の際、冗談を交え、今どきの若者は「ヤバッ」「マジ」だけで会話が成立するとの持論を展開し、会場は笑いに包まれた。 13曲を歌い上げたところで、故郷、熊本への想いと被災地訪問の報告がされた。当初、このツアーは熊本を皮切りにスタートするはずだったが、地震のため公演が延期になってしまったことを気にかけている。 「必ず行くから」「待っていてほしい」を力強く繰り返し、「Sweet Home Chicago」のメロディーに八代の熊本への愛をぎっしり詰め込んだ詩を付けた「Sweet Home Kumamoto」を歌った。