王者「日テレ」視聴率“大失速” ドラマもバラエティも勢いなく…ついに「テレ朝」に3冠王を禅譲か
「セクシー田中さん」が影響
日テレのドラマは2023年1月クールの放送で、同3月5日に個人視聴率4.3%を記録した「ブラッシュアップライフ」(日曜午後10時半)以来、大きなヒットに恵まれていない。 その一番の理由は同10月クールに放送された「セクシー田中さん」に絡み、原作者・芦原妃名子さんを今年1月末に自死に至らせてしまったことにあるのは間違いない。 芦原さんの死について制作者は深く傷付いている。また、担当のチーフプロデューサーの女性はドラマから離れた。やむを得ないことだろうが、過去にヒット作を何本も手掛け、他局からも「日テレのエース」と呼ばれていた人だけに影響は大きい。 日テレは7月、今後のドラマづくりの指針を発表した。その中にこうある。「原則として、放送の1年前には原作側・ドラマ制作側で、ドラマ化の企画について基本的な合意が形成できるように努めます」。「セクシー田中さん」の場合、基本的合意は半年前。かなり無理のあるスケジュールだった。 このタイトなスケジュールになった理由の詳細を日テレは未だ明かしていない。どうして余裕のあるスケジュールが組めなかったのか。すべてを明かしたうえで再出発すべきではないか。 釈然としない部分が残されているためか、日テレのドラマ制作はまだ順調とはいえない。来年4月クールで放送を予定していた「カモのネギには毒がある 加茂教授の人間経済学講義」の制作は流れた。 池松壮亮(34)が主演、浜辺美波(24)がヒロインの予定だった。原作はヤングジャンプコミックス(集英社)の漫画。原案がTBS「クロサギ」(2022年)の夏原武氏で作画が日テレ「新・信長公記」(同)甲斐谷忍氏の作品だが、日テレと原作者側の交渉が不調に終わった。 音楽番組とキャスターが交代したニュース番組も見てみたい。 今年9月7日放送の「with MUSIC」は3.1%。2023年9月9日放送の前身番組「世界一受けたい授業」は5.7%。かなりダウンした。 今年4月からキャスターが有働由美子アナ(55)から藤井貴彦アナ(52)に交代した「news zero」(月~木曜午後11時、金曜午後11時半)の今年9月2日放送は3.9%。2023年9月4日放送は3.4%なので微増した。 日テレのお家芸であるバラエティはどうか。放送4年目の「有吉の壁」(水曜午後7時)の今年9月11日放送は3.9%。2023年9月13日放送は4.7%。数字を落とした。 「有吉ゼミ」(月曜午後7時)のほうはほぼ変わっていない。さすがの有吉弘行(50)も午後7時台にレギュラー2本を持つのは簡単ではないのか。 放送28年目の看板番組「1億人の大質問!?笑ってコラえて!」(水曜午後7時54分)は今年9月11日が4.5%。2023年9月13日が5.5%とやはり落ちている。 「踊る! さんま御殿!!」(火曜午後8時)など個人視聴率が伸びている番組もあるが、下がっている番組が目立つ。強いバラエティが揃っている分、それが長寿化し、マンネリ化した部分があるだろう。弱い番組ばかりの局は短期間で番組が打ち切られるから、長寿番組は生まれない。 系列局の日本海テレビが起こした「24時間テレビ」の募金着服問題も失速に影響しているに違いない。民放は視聴者に寄り添うから好感度が命。過去、大きな不祥事に関係した局は例外なく低迷している。 山口寿一・日本テレビホールディングス代表取締役会議長(67)が現職の読売新聞グループ本社代表取締役社長で、日テレ・杉山美邦代表取締役会長(69)も親会社の読売新聞出身であることに疑問を口にする声は局内外にある。特に杉山氏は全権を握っているとされている。 新聞もテレビも専門職にほかならない。それもあり、今も新聞が資本の論理で民放の支配を続けているのは日テレとテレビ東京だけ。テレ朝が強くなったのもプロパーの早河洋会長(80)が社長に就いた2009年以降。早河氏は報道畑だが、芸能プロダクションまわりまでやった。 日テレの個人視聴率はV字回復するのか。それともテレ朝に3冠王を禅譲してしまうのか。 高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ) 放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。 デイリー新潮編集部
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