【22歳の編集部員がA110RGTに同乗試乗】ラリージャパンに出場したプロが駆る本物のラリー・アルピーヌを体感!
ベースの良さが光る
予想は的中。手足が宙ぶらりんになりそうなブレーキングでタイヤを温めたあとに向かったのは、シェイクダウン用のステージ……というのも名ばかりで、普通の人からしたら日陰の苔むしたクルマ1台分が通れる狭い農道だ。 2WDであることを疑いたくなるようなトラクションを披露してスタート。A110RGTの最も大きな変更点であるというシーケンシャルクロスミッションは、狭い林道でも幾度となくシフトアップを重ねる。湿った路面とは思えない減速Gに力んだ瞬間にはもうすでにノーズは向きを変えており、絶妙なスライドアングルを維持しながら、他のレイアウトのクルマには到底真似できない鋭さで次のコーナーへと飛び込んでゆく。 エンジン搭載位置を若干上方へ移動させ、ストロークを増やしたという特製のサスペンションは、一部大きく舗装が荒れた部分でも全く姿勢を乱さないどころか、衝撃すら感じさせないしなやかなさを見せていた。 終始目を疑うようなペースで林道を駆け抜けていくわけだが、不思議なことに絶叫マシンのようなスリルは一瞬たりとて感じない。ベテランドライバーであるアルマン・フューマル選手とA110RGTの組み合わせは、まるで数秒先が見えているような安心感を生み出していた。改造範囲がさほど大きくないA110RGTは7割が市販車と同じというので、ベースのA110の素性の良さが窺い知れる結果となった。
公道最速の2輪駆動
そんな体験から4日後の11月21~24日に行われたラリージャパン本戦。ヨーロッパ以外では初参戦となったA110RGTは、フューマル選手とコドライバーのジュール・エスカルテフィグ選手の組み合わせにより、戦闘力の高さをいかんなく発揮。ヨーロッパと同様に日本の舞台でもアルピーヌの伝説が進行形であることを見せつけ、トヨタGRヤリスやシュコダ・ファビアR5などの4輪駆動勢に次ぐ総合18位、2輪駆動部門ではクラス優勝という輝かしいリザルトを残したのだ。 そもそも2011年にカテゴリーが発足し、2015年より開始されたFIA R-GTカップ。2021年にデビューしたA110RGTは、ポルシェ911GT3RSやアバルト124スパイダーなどの強力なライバルを初年度から圧倒、全戦優勝を成し遂げていた。そういった経緯からも、今回のラリージャパンで他の2WD駆動モデルを駆逐しうる性能を持っていることは明らかだったが、その戦闘力を実戦に近い形で体験することができたのは幸運であった。 かつて、ラリーの世界でその名を轟かせたアルピーヌ。およそ50年の時を経た現在でもその威光は衰えていないどころか、より輝きを増していることを、その助手席で感じたのである。
小河昭太(執筆) 平井大介(編集)