江藤同点満弾、二岡サヨナラ弾から長嶋監督胴上げへ…1分52秒の間に起きていたこと
球団創設90周年の巨人の、スポーツ報知に残る膨大な取材フィルムの中から記憶に残る名シーンを振り返る写真企画「瞬間の記憶」。第6回はミレニアム打線と称された重量オーダーを組んだ2000年、江藤智と二岡智宏の連続アーチで4点差をひっくり返してリーグ優勝を決めた、シナリオのないサヨナラ勝ち。 マジック1で東京Dに戻った中日2連戦の2戦目、巨人は前田幸長を攻略できず0―4で最終回を迎えた。三塁側にいた軍司敦史(55)はフィルムカメラからデジタルカメラに持ち替えた。当時はフィルムの方が主流で、デジカメは号外や締め切り間際など用途が限定的だった。「今日も胴上げはなしか」。嘆きながらも、万が一に備えて9回裏の攻撃を見守った。 先頭の元木から、高橋由、松井の3連打で無死満塁。ミラクルへの期待感が球場を包みはじめた。会話ができないほどの大声援の中、守護神ギャラードからマルティネスは空振り三振。一塁側カメラ席の上村尚平(57)は併殺で試合終了があり得ると読んでいた。「どう負け試合を切り取るか考えていた」。何度も大舞台を経験している中堅カメラマンは冷静だった。 6番・江藤が2ボールからの3球目、147キロの低めストレートを左中間席にたたき込む。土壇場で試合を振り出しに戻すグランドスラム。興奮のるつぼの中、打席に入ったのは二岡だった。江藤の一発から1分11秒後、外角高めのスライダーを振りきった打球は右翼席に吸い込まれた。クールな二岡が何度もジャンプする。400ミリレンズをつけた上村のカメラのフレームに収まりきらない。「ということは、胴上げ?」。本当に起こった“万が一”に軍司の判断が追いつかない。胴上げは広めの300ミリレンズに付け替えることを想定していた上村も、「替える時間がない。このまま撮るしかない」と覚悟を決めた。 江藤弾からわずか1分52秒後に宙を舞った長嶋監督は「これは、議論や科学でも証明できない能力。シナリオでも書き尽くせない。だから、野球は面白いんです」と語った。 この日の午前中、シドニー五輪の女子マラソンで高橋尚子が金メダルを獲得しており、2度目の号外が発行された。中継した日本テレビの瞬間最高視聴率は44・3%に達したという。 ◆2000年の巨人 第2次長嶋茂雄政権8年目、ダイエーから工藤公康、広島から江藤智が移籍し、江藤に33番を譲った長嶋監督の背番号3が復活。4月こそ3位タイだったが、6月から首位を独走し4年ぶりのリーグ優勝を決めると、ダイエーとの「ONシリーズ」も制して6年ぶりの日本一を達成。秋のドラフトでは中大の阿部慎之助を獲得。
報知新聞社