「和を乱すな」中日・井上新監督にチーム変革の予感 「広島の新井監督と重なる」の評価も
■「一緒の矛先を向けない選手はいらない」 井上監督は11日に行われた監督就任会見で、選手たちに向けてこう語った。 「おれが好きな選手になれ。チャンスで三振しても、ぽろぽろエラーしても、『もう一回お願いします。もっと上を目指したいです』という気持ちがある選手が好きです」 強権的にも聞こえるが、そうではないだろう。井上監督は2軍監督時代から、全力疾走を怠ったり、サインプレーやカバーリングでやるべきことをやらなかったりする選手には、厳しく指導していた。その一方で、個々の選手が自分の色を出すことは尊重した。自身も現役時代に個性的なピンクのリストバンドを愛用し、「ピンキー」の愛称でファンに親しまれていた。 また、会見で「選手たちに守ってもらいたいルールがあるか」と聞かれると、次のように即答した。 「和を乱すな。僕が言ったことに対して徹底してくれ。できる、できないは別にしても、その意識を持つことを自覚してほしい。みんなと一緒の矛先を向けない選手はいらないよ、ということになってしまう」 立浪前監督の下で戦ったチームは、全員が同じ方向を向いているとは言えなかった。本拠地・バンテリンドームで行われた今季最終戦でDeNAに敗れて3年連続最下位が決まったが、試合後に白い歯を見せている選手がいた。中日の関係者は複雑な表情を浮かべる。 「大半の選手は悔しそうな表情でしたし、緊張感がなかったわけではない。一瞬見せた表情だけだったかもしれないけど、笑ったように見られている時点で寂しいですよね。昔の中日なら考えられなかった。戦力的に他球団に大きく見劣りするわけではないと思うんです。立浪前監督の下で何人もの若手が育ってチームの核になっている。それは大きな功績であることは間違いない。でも勝つ集団になるためには、まだまだ足りない。井上監督の下で意識改革が必要だと思います」
■井上監督が指揮したファームは2位 立浪前監督の下で低迷期からの脱却は叶わなかったが、決して無駄な時間ではなかった。高橋宏斗、岡林勇希、細川成也、松山晋也、清水達也と若手が中心選手に成長し、石川昂弥、村松開人、田中幹也、梅津晃大、松木平優太など伸びしろ十分の選手たちもいる。高橋周平、柳裕也もまだまだ老け込む年ではない。チームの中心で引っ張ってもらわなければ困る。 今季1軍は夏場にはCS争いから脱落し、借金2ケタから抜け出せなかったが、井上2軍監督が指揮をしたファームは違った。ソフトバンクとウエスタン・リーグでシーズン終盤まで熾烈な優勝争いを展開。惜しくも2位に終わったが、71勝46敗7分の好成績を残した。 ファームで対戦した他球団の首脳陣はこう語る。 「中日のファームは活気があるんですよ。試合中にミスが出ても取り返そうと声が絶えず出ていて、モチベーションが高い印象でした。来年井上さんは1軍の監督になるので違った苦労があると思いますが、良い監督になる資質を備えていると思います。指導者像で重なるのは、広島の新井貴浩監督ですね。いきなりリーグ優勝は厳しいかもしれませんが、CS争いに食い込む可能性は十分にあるでしょう」 中日は最近10年間で最下位が4度、5位が5度。常勝軍団構築への道は険しいが、井上監督は中日を変革できるか。 (今川秀悟)
今川秀悟