ついに始まる“自動車”の再定義 変化する自動車と人、そして社会の関わり
また、自分で運転する電気自動車タイプのパーソナル・モビリティは、トヨタ、ホンダ、日産の各社がそれぞれ提案しており、街のレンタルサイクルのように自由に借りることができたり、低価格で購入することができたりするようになれば、街中のお手軽な移動手段としてパーソナル・モビリティが重要な役割を果たす日が来るかもしれません。 また、これが自動運転と結びついて発展していけば、前述の観光客だけでなく、従来は自動車を利用することが難しかった身障者の移動手段としても活用できるほか、自動運転のパーソナル・モビリティ専用道路が生まれれば、超小型自動車というパーソナルな空間が意のままに目的地まで移動するバスでも電車でもない新しい形の公共交通が生み出されるのではないでしょうか。
このように、未来の自動車社会を占うキーワードには「自動運転」「エネルギー」「パーソナル・モビリティ」という3つが挙げられます。しかしひとつ、課題として考えなくてはいけないのは、こうした自動車の未来を占う技術の多くが、パーソナルな移動手段という自動車が持つ様々な価値を再定義する一方で、“運転する楽しさ”、“意のままに操れる歓び”という自動車が本来持っていたドライビング・プレジャーをあまり考慮していないという点です。 確かに、今回紹介した様々な技術やコンセプトは、安全性や利便性の向上、自動車社会の新たな価値の創造を期待させるものです。ただ、その反面で自動車からドライビング・プレジャーを奪ってしまっていないでしょうか。“自分で思いのままに操れるからこそ、自動車は楽しい”と思う古くからの自動車ファンにとっては、自動車の未来は少しつまらないものに映ってしまうかもしれません。未来の技術の中で、いかにして心がときめくような自動車そのものの魅力を生み出していくべきか。ドライビング・プレジャーを再定義するという作業も業界にとっては重要になってくるのではないでしょうか。 (取材・執筆:井口裕右/オフィス ライトフォーワン)