「“俺、墓がないんだよ”と呟いた元夫を納骨できた」「ペットと入れるお墓も」 コロナ後のお墓のトレンドとは
墓じまい費用は6万円ぽっきり
合祀墓の建設費用800万円は、森屋住職と檀家の代表らで捻出。各家の墓じまい費用は、石材店の協力で6万円ぽっきりに。合祀墓に無料で入れ、「永代にわたって供養する」と約束した。 「それを可能にするために、檀家以外からの納骨も受け付けることとしました」 と森屋住職。といっても、都会並みの額では希望する人などいないと、「4霊まで納骨料6万円」「存命の家族分を含め永代供養料8万円」と破格に設定した。 結果、地区にある二つの集落のうち、下口司集落は全檀家20軒が、もう一つの集落でも約半数が合祀墓にすぐさま移った。さらに、都会に改葬していた遺骨が「掃除をしなくていい、故郷の墓に入れるなら」と戻ってきたケースもある上、檀家以外の納骨もひっきりなしだ。 取材は5月28日の午後4時半からだったが、「東大阪市在住の60代の男性が、出身の富山の墓をしまい、6人分を納骨に来て、今、帰られたばかり」とのこと。春秋の彼岸と盆に行う合同法要は、檀家ら50~80人が集う。 檀家役員の一人、西田安夫さん(75)が「あのままでは、やがて取り返しのつかないことになったやろな。ベストな方法やった」と話した。 墓は、「今」を映す鏡である。核家族化が進んだのは半世紀も前だ。今では生まれた土地に住み続ける人の方が少ない。墓の形の変化は、多様化する家族の形と人々の生活感のリアルからずいぶん遅れてやってきた。「墓じまい」「継承不要」「合同」がキーワードか。どんな形にせよ、当事者が悔いのないことが肝要なのだ。 前編「『クラシックカーの隣でガレージ葬』『15万円で済む“小さなお葬式”も』 コロナ後の葬式、最新事情をレポート!」では、多様化が進み個人に合わせてアレンジが可能となってきたコロナ以降の葬式事情について紹介している。 井上理津子(いのうえりつこ) ノンフィクション・ライター。1955年奈良市生まれ。京都女子大学短期大学部卒。タウン誌を経てフリーに。人物ルポや町歩き、庶民史をテーマに執筆。著書に『旅情酒場をゆく』『さいごの色街 飛田』『葬送の仕事師たち』『絶滅危惧個人商店』『師弟百景』『葬送のお仕事 (シリーズお仕事探検隊)』など。 「週刊新潮」2024年7月11日号 掲載
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