AIには解けないね、青春の難問 小説2作目の安部若菜が託した思い
■レッツ・スタディー!経済編㉘ 小説家はAIに勝てる!? 人気投資漫画「インベスターZ」とコラボした連載「NMB48のレッツ・スタディー!」経済編。今回はNMB48の安部若菜さん(23)が2作目となる小説「私の居場所はここじゃない」(KADOKAWA刊、12月6日発売予定)を執筆する中で感じたことや経済編で扱ったテーマがどう生きているかを聞きました。(構成・阪本輝昭) 【写真】安部若菜さん=東京都千代田区、友永翔大撮影 ■新作小説は「夢」を追う高校生5人の青春群像劇 ――「私の居場所はここじゃない」はどんな小説ですか。 「夢」が大きなキーワードとなる小説です。それぞれに不器用さを抱えつつも夢を追いかける高校生5人の物語。10代の頃って、「何にでもなれそう」「どんな夢もかなえられそう」という万能感や希望にあふれている一方で、だんだん現実の厳しさや社会の仕組みも見えてきて、葛藤やもどかしさと直面する年代だと思います。「あるある」と思ってもらえたり、「自分にもこんな時期があったな」と懐かしく感じてもらえたり、色んな読み方をしてもらえる本になっているといいなと。前作「アイドル失格」を書かせてもらったあと、「次は青春群像劇のような作品を書いてみたい」という思いがありました。プロット(筋立て)を考えるのに約1年、執筆に約1年。気付けばもう2年もたっていたのか、という思いです。 ――小説の設定を教えてください。 この小説に登場する男女5人は、いずれも大手事務所の主催する芸能スクールに通う仲間同士です。仲間同士とはいうものの、スクールに入った動機やきっかけは様々で、事務所所属のアーティストとなれる枠を競い合うライバル同士でもあります。肩書も実績もまだ何もない若者たちが、それぞれが強みだと思っている資質や能力を互いに見比べ、優越感をもったり、劣等感にさいなまれたり。そんなリアルな青春の空気感を再現することを大事にしました。 ■バックボーンは様々な5人 嫉妬、対立、そして友情 ――5人の高校生はどんな人たちですか。 まずは、友達と一緒に「ノリ」で応募したオーディションがきっかけで、思いがけずアイドルをめざすことになった普通の高校生・莉子。亡き母の願いを背負い、アルバイトをしながらダンスボーカルグループでのデビューを志す冬真。モデル志望で、洗練された雰囲気とたたずまいをもちながら、どこか愛情に飢えているようなところがある美華。周囲から地味でおとなしい子という印象をもたれながら、実は「特別」になりたいという思いが人一倍強い俳優志望の純平。あるトラウマと挫折を抱えながら、もう一度夢を追うことにした元天才子役のつむぎ。この5人の間に生まれる嫉妬、羨望(せんぼう)、対立、そして友情を描いています。 ――安部さん自身を投影したキャラクターはいますか。 5人の中では、純平に一番共感できます。 NMB48に入る前の自分に近いですね。自分が「普通」であることにコンプレックスを持っている。「特別になりたい、何か他人と違うことをしたい」という思いを持ちながら、特別にはなれない現実に直面し、そのつど自分に言い訳をしつつも頑張り続けている。ひねくれ者だけど、努力は惜しまない。自信はないけど、プライドは高い。そういうアンバランスさを抱えたキャラクターです。 ■味わい深い脇役たち 「大人」も夢を追いかける ――青春群像劇とはいうものの、高校生たちの考え方に影響を与える存在として、「現実」や「生活」との折り合いをつけながら見果てぬ夢を追い続ける「大人」たちも何人か登場していますね。 夢を追うのは10代の特権というわけではなくて、大人になっても夢を追うことはできるというか。むしろ人は生きている以上、永遠に何かを追いかけ続けるものだと思います。もちろん、大人になれば生活もあり、背負うものもあって、その分、「夢を追う」ことは簡単ではないわけですが、それでもやむにやまれぬ思いというものがある。そうした思いに触れて、この小説に登場する高校生たちが何を感じ、内面にどんな変化が生じるのかもぜひ読んでほしいポイントです。この小説を、若い世代はもちろん、全ての世代の人に楽しんでもらいたいと思う理由の一つでもあります。 ■AIは小説家の脅威となる? 安部さんの答えは… ――そうした「大人」の一人として登場した日下部さんという人物が印象的でした。「全ての人生がAIに決められる未来」をテーマにした会話劇に出演し、熱のこもった演技を披露するんですね。 以前の「経済編」でも「AIは人間の仕事を奪うのか」をテーマに議論を交わしました。この小説のプロットを書くのに1年を要したわけですが、もし生成AIの手を借りていたらどうだったか。生成AIに、名だたる小説家や作家の文体などを取り込ませ、それらしい「新作」風の文章を書かせることすら技術的には可能になった現代で、あえて人間の頭脳と手で小説を書く意味は何か。そんなこともうっすら考えながらの執筆でした。 「夢を語るのはかっこ悪いのか?」「努力するのはダサいのか?」 執筆しながら思ったことでもあるんですが、やっぱり人間にしか解けない問いがある。AI作品が出回れば出回るほど、「生身の人間が書いたもの」に価値が出てくると思うので、私たち小説家がAIに取って代わられるという恐怖は、今のところありません。 ――その一方、先日(11月11日)、台本、声、楽曲、イラストをすべてAIで作成したという「ラジオ番組風の音源」を自らのYouTubeチャンネル(@_wakapon_)で公開していましたね。 2024年の時点で、AIを使うと何がどこまでできるのかを自分で実験したくなりました。いくつかのAIを組み合わせると、それらしい「番組」が一瞬でできあがり、驚きました。声も自分自身の声をもとにして文章を読み込ませたものですが、私自身も違和感をほとんど覚えないほどの完成度でした。できあがった楽曲も歌詞もそれらしく聴けるのですが、どこか人間味が薄く、心に訴えかけてくるものが乏しい。 やっぱり「人間性」を機械がつくり出すことはできないな、と。でも、うかうかするとAIに追いつかれる未来がないとはいえない。小説家は内面と感性を常に磨き続けていないといけないな、と感じた実験でもありました。(構成・阪本輝昭) ◇ ■【プロフィル】安部若菜さん あべ・わかな 2001年、大阪府生まれ。18年にNMB48に加入。経済学部で学ぶ現役の大学生。小説執筆のほか、落語、投資、ゲームと趣味や特技が幅広い。22年11月、アイドルとファンの恋愛と成長をテーマにした小説第一作「アイドル失格」を発表。ドラマ化や漫画化もされている。 ■【書籍紹介】私の居場所はここじゃない 「アイドル失格」に続く、安部若菜さん2作目の小説。ある芸能スクールを舞台に、理想と現実の間で揺れ動きながらも夢を追いかける男女5人の高校生の葛藤と成長を描く。「夢を語るのはかっこ悪いのか」「努力するのはダサいのか」といった青春の問いと悩みに、それぞれが向き合っていく。12月6日発売予定。
朝日新聞社